休職中の彼女が"ハラミちゃん"になったキセキ 初めてのライブ配信はお客さんが来なかった

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ピアノは久しく弾いておらず、本当にその日、人前で演奏するかどうかは直前まで決めていなかった。けれどピアノを見た瞬間、いろいろな感情がこみあげ、自然と指は鍵盤へ。「観光客の方がたくさんいて、最初は恥ずかしさや怖さがありましたが、ピアノの椅子に座ったら、アドレナリンがバーっと出てきました」。

来る途中、電車の窓から見た新宿の景色から、映画『君の名は。』のイメージが頭に浮かんでいた。弾くならこの曲、と、とっさに選んだのは主題歌だったRADWIMPSの『前前前世』。前に一度弾いたことがあるだけの曲だったが、迷わず弾き始めた。

ハラミちゃん
休職中、気分転換に出かけた新宿都庁でストリートピアノを演奏した動画が、その後の人生を変えた(出所:ハラミちゃん〈harami_piano〉 YouTubeチャンネルより)

演奏の途中で、どこからともなく拍手が湧き起こった。頭によぎったのは、小学校での休み時間。ピアノを弾き始めると、お友達が集まってきて、楽しそうに聴いてくれた、あの日の光景。「演奏中、あのころと同じような、心が解放されるような感覚があって、弾き終わったときには、はつらつとした気分になっていました」。

演奏後、年配の女性3人組から話しかけられ、演奏を褒めてもらった。

「しばらく、引きこもりみたいな生活をしていたので、見ず知らずの人と話すなんて、本当は怖いと思うはずなのに、不思議と自然に話せる自分がいたんです」

わずか2週間で、再生回数は30万回

都庁へ連れ出してくれた先輩は動画編集が趣味で、この日、撮影した演奏の様子を編集し、“ハラミちゃん”というアーティストネームでYouTubeにアップしてくれた。名前の由来は、大好物のハラミ肉から。

ピアノの演奏動画をアップしている人はたくさんいるので、特別な感じはなかった。だが投稿からわずか2週間で、再生回数は30万回を超えていた。その反響に驚き、「上司にばれて、休職中に遊んでいると思われるのではないか」と心配になった。

でもそれ以上に驚いたのは「数年ぶりに弾いた曲でミスタッチをしているし、ボロボロの演奏だったのに、付いたコメントが自分の想像と180度違うものだったこと」。YouTubeのコメント欄には「これからも美しい音色を聴かせてください」「パワーをもらいました」など、見知らぬ人からの温かいメッセージがつづられていたのだった。

一方、休職を延長するのか、復職か、もしくは退職か、決断しなければいけない時期が迫っていた。

「どのような人生を選択するか、悩んだので、考えられるカードを全部、あげてみたんです。すると20代なので、いろいろな選択肢があると気づきました。それは本当にありがたく、幸せなことで、どのカードを選んでもいいはずなんですが、慎重な性格なので、リスクを負いたくなくて。結局、やっぱり会社員に戻ろうかな、っていう気持ちが強くありました」

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