休職中の彼女が"ハラミちゃん"になったキセキ 初めてのライブ配信はお客さんが来なかった

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“お米さん”たちに直接会え、うれしさいっぱいに演奏をしていたとき、ふと車いすの人が楽しそうに聴いてくれている様子に気づいた。車いすの人の前で演奏するのは、そのときが初めて。わざわざ聴きに来てくれたことに感動し、印象に残ったのだが、帰りの車の中でふと、走馬灯のように思い出したものがある。

それは小学生のころ、夏休みの宿題で描いた一枚の絵。

ハラミちゃんが幼い頃に描いた絵
小3の夏休みに宿題で描いた1枚の絵。大人になって、絵の光景そっくりの演奏ができたこと。そして母がラミネート加工のうえ保管してくれていたことにも運命を感じたという(写真提供:harami_piano)

自分が弾くピアノの周りには、赤ちゃんやお年寄り、障害のある方など、いろいろな人や動物までいて、みんな楽しそうに演奏を聴いている。そんな絵だったのではないかと思い出し、すぐ母に電話した。「もしかしたら勘違いかもしれないけれど、ぐらいの感じで尋ねたら、保存してあるよ、って言われて」。

絵は母の手でラミネート加工され、大切に保管されていた。絵と再会し、改めて思った。「いろいろな道を通ってきたけれど、小学生のときに思い描いていた夢を、確かにこうして実現できている」。

2020年から2021年にかけては初の全国ツアー。2022年1月には、フジコ・ヘミングさん以来、女性ピアニストとしては15年ぶりの武道館公演を成功させた。

テレビやイベント出演なども多く、忙しい日々を送り、現在も47都道府県すべてをまわる全国ツアーの真っ最中。楽譜が読めない人でも魔法のようにピアノを弾ける本を1年かけて開発するなど、ピアノを弾く楽しさを伝える活動にも力を入れている。

原点のストリートピアノは今も

そんな毎日だが、今でも、仕事やプライベートで地方へ行った際には、ストリートピアノの場所を調べて、ふらっと弾きに行くことがある。その様子をYouTubeにアップすることもあるが、「撮影が目的ではなくて。今でもストリートピアノを弾くと元気になれるので、すごく大切な存在なんです」。

ハラミちゃん
活動開始から1年半ほどたったころ、JR大塚駅に設置されていたストリートピアノで演奏する様子。すでにテレビで特集が組まれるなどしていたが、あくまで街の一演奏者としての表現にこだわり、その場にいた人たちに演奏を楽しんでもらった(写真提供:harami_piano)

有名になった分、気をつけている部分もあるという。「ハラミちゃんだ、ってスマホを持った人がワーっと集まってきて、それはそれでありがたいんですけれど、どちらかと言うと楽しそうな演奏が聞こえてくるから行ってみよう”とか、“あれ誰だっけ?”みたいに立ち止まってくれる人たちの反応が楽しみで、そこにストリートピアノの良さがあると思っています」。

そのため、あえて人がいない時間帯や場所を選んで、弾きに行くこともある。もしも街中で、幸せが、喜びが弾けるようなピアノのメロディーが聞こえてきたら、その“ピアノ弾いてる女の子。”はハラミちゃん、その人かもしれない。

(この記事の前編:「音大からIT企業の道を選んだハラミちゃんの胸中」)

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吉岡 名保恵 ライター/エディター

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よしおか なおえ / Naoe Yoshioka

1975年和歌山県生まれ。同志社大学を卒業後、地方紙記者を経て現在はフリーのライター/エディターとして活動。2023年から東洋経済オンライン編集部に所属。大学時代にグライダー(滑空機)を始め、(公社)日本滑空協会の機関誌で編集長も務めている。

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