ホンダジェットの開発に"導かれた"男 思いがけず入社3年目に決まった運命

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「ホンダジェットの(機体の)カーブにはすべてに意味がある」と語っていた藤野社長(写真は2008年当時)(撮影:梅谷秀司)

真剣な面持ちの藤野に対し、目の前の上司は笑っていた。「すでに(異動は)決まっているから。そんなことは言いに来なくてもいいよ」――。

それから30年近く。航空機事業の立ち上げに向かって、ひたすら前を見続けてきた。2006年からはホンダ エアクラフト カンパニーの社長を務めている。「本当にいろいろなことがあった。喜びや達成感を感じるのはごく一瞬。そのほかの大半の時間は、精神的にきつい思い出ばかり」と藤野は言う。

1992年に初号機が完成したが、実験機の範囲を超えるものではなく、社内でも航空機事業のプライオリティに疑問符がつき始めた。「もうダメか」と思う時が何度もあり、「もう1回だけやってみたい」と当時の川本信彦社長に見せたコンセプトが、今のホンダジェットの土台になっている。

常識破りの”ベストポジション”

数少ない「喜び」の1つがボーイングでの試験だろう。ホンダジェットの最大の特徴は、エンジンを主翼の上に置くという従来にない構造だ。これで一般的な胴体後部のエンジン配置に欠かせない”横串”の構造が不要になった。結果、後部まで客室として利用できるようになり、騒音や振動の軽減も図れている。

主翼の上に何かを置くと揚力が落ち、空気抵抗が増すので難しいというのが、当時の航空業界の常識だった。だが、開発メンバーは研究と実験を重ね、逆に空気抵抗が下がる”ベストポジション”を突き止める。シュミレーションは問題なし。ただ、机上の計算は100%ではない。ボーイング社で行う試験結果が出るまで、不安でたまらなかった。

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