独裁者とSNS、ノーベル平和賞受賞記者の戦い方 ネットメディア「ラップラー」のマリア・レッサCEOに聞く

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――ドゥテルテ政権からマルコス政権に代わって1年。あなたやラップラーを取り巻く状況に変化はありましたか。

「ラップラー」のオフィスで(写真・柴田直治)

「恐怖は少し和らぎました。現場、サイバー空間、法廷でも。1月には4件の脱税裁判で無罪が出ました。有罪なら最大懲役34年でした。ラップラーの記者はいま大統領府でも取材し、大統領外遊に同行もできます。前政権ではすべて排除されていました。

でも刑事裁判がまだ4件残っています。逆らう者への見せしめとして訴追された不当な裁判です。現政権下で法の支配が機能することを願っています」

――マルコス政権1年の評価は?

「父の汚名をそそごうとする息子の政権という印象です。大統領選ではSNSの力で、世間の鼻つまみから最高の指導者へとイメージチェンジを成功させましたが、中国寄りだった前大統領の路線を変更し、地政学的なバランスを取り戻した以外、まだ何も成し遂げていません。前任者と違い、世界の目を気にしているようにはみえます」

SNSが国民の孤立を招く

――欧米ではラップラーの報道や言論、ドゥテルテ前政権との闘いに共感を寄せる人が多いものの、フィリピン国内ではラップラーの批判にもかかわらずドゥテルテ氏やマルコス氏は圧倒的に支持されています。

「フィリピンではフェイスブックが麻薬のように広がり、(ドゥテルテ陣営やマルコス陣営が)これを利用して真偽さまざまな情報をまき散らす一方で、人々をニュースから遠ざけてきました。もともと貧富の格差が大きく、人々の怒りが広がりやすいところにソーシャルメディアが火をつけた。

ドゥテルテ政権以前、人々の生活は実際には良くなり、中間層も増えていました。それでも人々が疎外感を抱き、孤立しやすい環境をソーシャルメディアが生み出し、そこにストロングマンへの郷愁を導いた」

――フィリピンでは、20年に及ぶ独裁体制を敷いた現大統領の父を1986年の政変で追放し、民主主義が復活したとみられてきました。しかしその後30年以上が経過しても貧富の差は縮まらず。既得権層に富は集中していた。人々はメディアを含めたエリート層の唱える民主主義やリベラリズムにうんざりしていたのではないでしょうか。

「民主主義が手の届かないものだと感じた時、人々はやややこしいことは誰かに決めてもらいたい、家族や友人との関係に専念したいと思いがちです。過去の権威主義体制へのノスタルジーはフィリピンに限らず、インドでもインドネシアでもみられます。『権力に対する人間の闘いとは、忘却に対する記憶の闘いである』というミラン・クンデラの言葉があります。民主主義を維持するのは簡単ではありません」

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