独裁者とSNS、ノーベル平和賞受賞記者の戦い方 ネットメディア「ラップラー」のマリア・レッサCEOに聞く

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ドゥテルテ氏は就任とともに選挙時の最大公約である「麻薬撲滅戦争」に突き進み、政府が認めるだけで捜査中に6000人を超す死者が出た。その多くは超法規的殺人、つまり司法手続きを踏まずに現場で殺害された事案だ。人権侵害だとして批判的に報じるメディアは政権の弾圧対象になった。

大統領が年1回、施政方針を表明する一般教書演説でドゥテルテ氏は、こうしたメディアを名指しで攻撃した。最大放送局のABS-CBNに対しては放送免許更新の必要はないと言い放った。同局はその後、国会の更新承認が得られず地上波を失った。

有力日刊紙「インクワイラー」の社主に対しては「株を売れ」と圧力をかけ、実際に売却を余儀なくされた。なかでも最も苛烈だったのはレッサ氏とラップラーへの弾圧だった。

ラップラーは2016年10月、「プロパガンダ戦争:インターネットの武器化」という3部作をリリースした。ドゥテルテ陣営や支持派インフルエンサーがソーシャルメディアを使ってどう偽情報を拡散し、麻薬戦争を正当化しているか、大統領選で駆使したか、特定の記者を攻撃しているかなどを詳細なデータで検証したシリーズだ。

この直後からネット上での猛烈な攻撃が始まった。ドゥテルテ派インフルエンサーが「ラップラーのフォローをやめろ」キャンペーンを始め、リーチは44%下落した。レッサ氏のフェイスブックには1時間平均90通の非難や人格攻撃メッセージが寄せられた。

続いて政府の弾圧が始まる。ラップラーの経営権と所有権が外国資本に支配され、メディアの外資制限を定めた憲法に反するとの訟務長官の通告を受けて、証券取引委員会が2018年1月に営業許可を取り消した。

ラップラーは2つの海外ファンドから預託証券による投資を受けていると認めたものの「株式取得とは違い、投資家は経営にも編集にも関与していない」と主張し、裁判所に無効確認を求めて係争中だ。

相次ぐ逮捕、裁判、出国禁止

その後、レッサ氏は名誉毀損、脱税、反ダミー法(外国企業による投資を規制する法)違反などで次々と訴追され、2度逮捕された。保釈金を払って保釈されたが、アメリカで闘病中の母を見舞うための出国も許可されなかった。脱税については政権交代後の2023年1月に無罪判決が出たものの、現在も4件の刑事裁判が続いている。

「ラップラー」のオフィスで指示を出すレッサ氏(写真・柴田直治)

恣意的といえる訴追や判決もある。例えばマニラ地裁が2020年6月、レッサ氏とラップラーの元記者に禁固刑を言い渡した名誉毀損の裁判だ。対象の記事は2012年5月に掲載されたが、2017年になってドゥテルテ氏に近い華人実業家が告発した。

検察は2012年9月に発効したサイバー犯罪防止法の名誉毀損条項に基づいて起訴に踏み切った。法の遡及適用のようにみえるが、2014年にラップラーがタイプミスの部分を訂正した時点を起点として起訴し、裁判所は有罪とした。

レッサ氏は執筆者でもなければ編集の担当でもなかった。新聞社の記事で名誉毀損があったとして社長を有罪とするような判断だ。

政府や司法を挙げての圧力に加えて、大統領自らが記者会見でレッサ氏を「詐欺師、うそつき」と罵倒し、会見からラップラーの記者を恒常的に締め出した。政権支持者らはこれに呼応して、ネット上で罵詈雑言を嵐のように浴びせ続けた。

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