フィリピン・マルコス政権下でジワリ進む歴史修正 政変記念の祝日廃止、教科書の指導要領の変更…

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大統領府のミュージアムに飾られているフェルディナンド・マルコス現大統領一家の肖像画(写真・柴田直治)

フィリピンで現代史の書き換えが始まっている。

20年余にわたり強権を奮った故フェルディナンド・マルコス(シニア)大統領時代の負の側面を打ち消し、その体制を覆した政変の意義を過小評価する動きだ。米中対立の激化にともないフィリピンを取り巻く安全保障環境に注目が集まる陰で、独裁者の長男ボンボン・マルコス氏の政権がジワリと進める歴史修正は、マルコス家からすれば「名誉回復」ということになる。

ピープルパワー記念日を祝日から削除

フィリピン政府は2023年10月13日、2024年の祝祭日を発表した。クリスマスや春節、イスラム教の犠牲祭などが例年通り告知されたなかで、1日だけ除外された日がある。2月25日の「エドサ革命記念日」だ。「ピープルパワー記念日」とも呼ばれる。

1986年、マニラ首都圏エドサ通りを埋め尽くしたコラソン・アキノ氏(のちの大統領)支持の人波によってマルコス家がアメリカへ追放され、独裁政権が崩壊した政変を記念した日だ。

この日を祝日から外した理由について大統領府は、2024年は日曜日に当たるからと説明した。フィリピンには振替休日の制度がないため社会経済的な影響が小さい、つまり国民が連休を楽しめないとの趣旨だが、詭弁であることは明らかだ。歴代大統領は日曜と重なっても祝日に指定してきたし、2024年は日曜日に当たる12月8日の聖母マリアの日が祝日のままなのだ。

マルコス家にとっては黒歴史の日を祝いたくない心情は、ボンボン氏が大統領になって初めてだった今年2023年の「革命記念日」にすでに表れていた。

大統領府は前々日の2月23日夕方になって突然、祝日を24日に1日前倒しすると宣言した。25日は土曜日なので連休を増やすためとの理由だったが、発表が急だったため教育現場や職場は混乱した。

当の25日、ボンボン氏は、政変の舞台となったエドサ通りで催される恒例の式典には姿をみせず、地元の北イロコス州で過ごした。代わりに声明を出した。

「国民を分断した歴史を振り返る時、国家としていかに団結して強くなったかを国民とともに私は記憶している。進歩と平和、全国民により良い生活を提供する社会を築くため、政治的立場の異なる人々にも和解の手を差し伸べたい」

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