AIに仕事を奪われないために有効な「脳の鍛え方」 62歳で「海馬の細胞」が増えたタクシー運転手

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習慣的に行うことによって、脳内のBDNFが増え、脳のやる気を引き出し、ハイパフォーマンスにつなげていくことができるはずです。

オックスフォード大学で研究者をしていたころ、ロンドンに出かける際に頼りにしていたのがタクシーです。なぜなら、ロンドンの道は裏道まで入れると、極めて入り組んでいて複雑です。

62歳で海馬の細胞が増えたタクシー運転手

このロンドンのタクシーを操る運転手の海馬が、一般の人と比べて大きくなっていることが『米国科学アカデミー紀要』に発表された研究で明らかになりました。

しかも、この海馬領域の増大は、運転手の年齢には関係なく、勤務経験の長さに相関する形で認められました。

つまり、タクシー運転手としての経歴が長ければ長いほど、海馬が発達していたことになります。

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「脳の神経細胞は年齢とともに減っていく一方だ」と前述しましたが、ひとつだけ例外があります。記憶の一時保管場所である海馬に存在する特定の細胞にだけは、増殖する能力があるのです。

ロンドンのタクシー運転手は、複雑なロンドンの道を何度も運転することで道路網を記憶し、その結果として海馬が鍛えられ、記憶力が高まったことを示唆していると考えられます。

研究に参加した運転手の年齢は、もっとも若い人で32歳、最年長は62歳でした。

つまり、脳の容量が急激に減少に転ずる年齢である50歳を超えた運転手でも、海馬の増大は確認されているということです。

脳の力を最大限に引き出すためには、年齢に関係なく、脳を鍛えればいいことになります。

もうそう遠くない、AIとの共存が本格的に始まる未来において、自分の仕事や居場所がなくならないためにも、いまから準備を始めてもらえたらと思っています。

下村 健寿 福島県立医大主任教授、医師

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しもむら けんじゅ / Kenju Shimomura

福島県立医科大学医学部病態制御薬理医学講座主任教授。医学博士・医師。元・英国オックスフォード大学生理学・解剖学・遺伝学講座/遺伝子機能センター・シニア研究員。インスリン・糖尿病学の世界的権威、フランセス・アッシュクロフト教授に師事。同大学にて2004年に発見された、新生児糖尿病の治療法発見に貢献する。特に2007年に米国神経学会雑誌「Neurology」において、新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の世界初の治療有効例を、その治療法・病態メカニズムとともに報告し、Editorial論文に選ばれ高い評価を受けた。現在は母校・福島県立医科大学病態制御薬理医学講座の主任教授を務める。

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