民主主義からますます遠ざかる「タイ式」民主主義 混迷深めるタイの首相指名と民主主義阻止の動き
タイの新首相選びが混迷を深めている。2023年5月の総選挙で下院の最多議席を獲得したリベラル派政党・前進党のピター・リムジャラーンラット党首が野党連合の統一首相候補になったものの、選挙管理委員会、憲法裁判所と任命制の上院に行く手を阻まれた。
いずれも9年前のクーデターで政権を奪取した軍や王党派の影響力が強い機関である。既得権層が敷設した「選挙民主主義阻止」の地雷が思惑どおり作動した形だ。
これを受けて野党連合は、第2党のタクシン元首相派プアタイ(タイ貢献党)から首相候補を出すことで合意したものの、指名に必要な数に達していない。プアタイが前進党と手を切って旧与党側と連立を組む可能性も指摘されている。国民が選挙で拒否した親軍政党の居座りを許す連合だ。
王党派、第一党党首の首相就任を阻む
タイの国会で2023年7月13日、首相指名選挙が実施された。ピター党首が唯一の候補だったが、賛成票は324票で、過半数の375に届かなかった。反対が182票、棄権が199票だった。
首相指名投票には選挙で選ばれた下院議員500人に加え、上院議員249人が加わる。総選挙で151議席を獲得した前進党と第2党で141議席のプアタイなど野党8党の議席は312。下院だけの投票なら安定政権樹立に十分だが、749票の過半数を得るためには与党連合か上院議員から60票以上を得る必要があった。
前進党は、王室を中傷したり侮辱したりした場合に禁錮3~15年などが科される不敬罪の改正や徴兵制の撤廃など公約に掲げた。これに王党派や軍が強く反発している。
2回目の首相指名選挙は7月19日に予定されていたが、開会直前に憲法裁判所がピター党首の議員資格を一時停止する決定を下した。ピター氏がメディア企業の株を所有したまま立候補したのは憲法違反だとして選挙管理委員会が憲法裁に申し立てていた。
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