民主主義からますます遠ざかる「タイ式」民主主義 混迷深めるタイの首相指名と民主主義阻止の動き

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今回、「汚職」や「腐敗」という根拠を失った与党連合や王党派は、残る大儀である「不敬」をまたぞろ持ち出している。反政府運動の封じ込めに使われた不敬罪の改正や王制改革を前進党が掲げているからだ。しかし王室を取り巻く状況も大きく変わっている。

変わる王室、対立の構図

王制護持を掲げる王党派や軍がこれまでそれなりの支持を得てきたのは、プミポン前国王への国民の絶大な支持があったからだ。存命中は王制=プミポン前国王だった。ところが、ワチラロンコン国王の人望は前国王の足元にも及ばない。結婚を繰り返し、側室を置き、ドイツの豪邸での滞在期間が長い。

全身にタトゥー(シール説もある)を入れ、へそ出しルックで外出する姿や半裸の女性をはべらす動画などが出回っている。王党派や軍が守るという王制とはいったい何なのか。守ろうとしているのは彼らの既得権でしかないのではなかろうか。そうした疑問が国民の間に広がっていても不思議はない。

多くの識者が指摘するように、今回の選挙で政局の対立構造は大きく変化した。過去20年以上にわたって繰り広げられたタクシン派対反タクシン派の構図は、軍や王党派を含めた既得権層対リベラルな改革派に置き換わりつつある。第1党の座を初めて譲ったプアタイの主流派は今後、既得権層に吸収されていくのではないだろうか。

タイの政治体制はこれまで、政局が行き詰った際に軍が介入し、国王がその是非を裁定する「タイ式民主主義」と称されたり、非民選の軍出身者が首相となって統治する「半分の民主主義」と呼ばれたりした。タイ式の「式」が外れ、半分ではない民主主義に進むかどうかは今後の展開次第だが、希望はある。

今回の総選挙では3951万人が投票所に足を運び、投票率は過去最高の75.7%を記録した。前進党支持者によるデモも続いている。日本では失われて久しい民主主義をめぐる国民の熱気や高揚を私は感じている。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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