ここまで、ビッグモーターの「報酬返上」にネットユーザーたちが納得いかなかった理由を解説してきたが、そもそも「とりあえず謝った」イメージを残してしまうのは、昨今のネットカルチャーからすると、あまり得策ではない。SNSユーザーというのは、「スカッとした、わかりやすい結果」を求めがちだ。だからこそ、示された結果がモヤッとしていると、かえって悪印象を与えてしまうのだ。
直近では、ジャニーズ事務所の対応が思い出される。ジャニー喜多川氏の性加害問題をめぐり、5月14日に現社長の藤島ジュリー景子氏が、動画とともにコメントを発表した。しかし、英BBCの報道から2カ月たっての公式発表とあって、「経緯説明としては遅すぎる」との批判とともに、記者会見を求める声も相次いだ(偶然ながらビッグモーターの報告書が出た7月18日、ジャニーズ事務所は第三者による再発防止特別チームからの提言を受け次第、「今後の対応に関して記者会見を行う予定」だと発表している)。
どちらのケースにも共通するのは、一般消費者に「業界内や行政の顔色ばかり見ていて、こちらに誠意が向けられていない」と感じさせてしまっていることだ。ビッグモーターであれば車の所有者、ジャニーズであればファンや視聴者が、どこか「置いてけぼり」にされたまま、どこか遠くの世界で動いている──。行き着く先は、さらなる疎外感やモヤモヤだ。
「上層部が知らなかった」とするスタンスでも、2つの事例は似ている。ジュリー氏は「知らなかったでは決してすまされない話だと思っておりますが、知りませんでした」(ジャニーズ事務所公式サイトより)とコメントしていた。ビッグモーターも「不適切な行為が行われていたことを全く知らなかったと弁明している」(報告書より)という。
実際に知らなかったかは、本人のみぞ……の世界だが、少なくとも「本当に知らなかったの?」と懐疑的になるのは無理もない。実際、ビッグモーター報告書で、特別調査委員会は「現場の事情に全く気付いていなかったとすれば、そのこと自体、当社の深刻な問題点として指摘される必要がある」と意見している。
SNSでは、感想がまとまれば瞬時に「世論」に
ビッグモーターは、自動車オーナー以外の知名度も高い。ラジオやテレビで「車を売るならビッグモーター」のキャッチフレーズをよく耳にするし、関西在住だったら、かつて存在した「ハナテン(8710)中古車センター」(のちに買収され、BIGMOTORブランドへ転換)のイメージも強いだろう。それだけに、潜在顧客を失うリスクも大きい。
SNS上では、以前放送されていたビッグモーターのテレビCMが、ふたたび注目されている。査定スタッフが乱暴に自動車を扱い、あげくの果てに破壊するというストーリーで、「クルマ売る前に、お店選ばなきゃ」と呼びかける内容だ。あくまでフィクションであるが、十数年の時を超えて、「まるでブーメラン」「おまいう(お前が言うな)」などと話題になっている。何度もネタをこすられないためにも、初動対応はおろそかにできない。
消費者不在の姿勢が透けて見えても、かつては、1人ひとりの「ちょっと気になるなぁ」で収まっていた。しかしSNSの登場によって、個人の「なんとなく」が可視化され、束になって、大きなうねりを生むことが当たり前になった。オピニオンリーダーでもない、一般ユーザーの感想も、まとまれば瞬時に「世論」となりうる。まるで絵本『スイミー』のようなSNS社会において、消費者軽視と感じさせるような対応は、あまり得策と言えないだろう。
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