ビッグモーター「社長1年報酬返上」にモヤる事情 ジャニーズと通底する、消費者不在の姿勢

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後手後手に回っている印象のビッグモーターだが、ここで話を報酬返上に戻そう。

不祥事の際の経営陣の報酬返上には、責任を明確にする「けじめ」の意味合いがある。たとえば記憶に新しいのは、日野自動車の事案だ。2022年10月、エンジン排ガス不正をめぐって、同社は役員辞任とともに歴代幹部への報酬返納を要請する方針を示した。すでに会社を離れていても関係なく、さかのぼって経営責任を求められる。それほどまでに、経営陣の立場は大きいのだ。

だが一方で、けじめの「内容」以上に大事なのが、そこへ至る「経緯」だろう。

ビッグモーターが公開した報告書によると「サンプルテストにおいては、検証対象とした2717件のうち1198件(検証対象とした案件の約44%)が、何らかの不適切な行為が行われた疑いがある案件として検出された」という。

この時点で膨大に思えるが、氷山の一角である可能性が残っている。というのも、対象となった2717件は「タワー牽引」と呼ばれる作業が含まれる全2万8706件のうちの10%が無作為に抽出されたものであり、しかも全2万8706件は2021年に行われたものだからだ。また、同社はその他にも不正や不祥事を疑われる事案が数多く指摘されている。

(出所:ビッグモーター調査報告書)

つまり、不正・不祥事実態の把握や原因の究明は、まだまだ途中なのだ。しかし、そんな中で、ビッグモーターは会見を一度もすることなく、しかも発表前にリークされる形で、報酬削減を表明した。

これで、人々が納得するはずもない。ネットユーザーたちから「処分として甘すぎる」「経営陣が一掃されないと解決にならない」「まずは記者会見を開くべきだ」「たった1年や数カ月の報酬返上で見合っているのか」「株式を持っている社長には実質的なダメージはあまりないのではないか」など、手厳しい声が相次いだのは、無理もない話だろう。

損保各社への対応は不十分、メディア対応にも後ろ向き

だが、今までのビッグモーターの姿勢を調べると、そうした反応も納得かもしれない。各社報道によると、損保各社に対してですら当初、抜粋された形の報告書しか示されず、損保側が完全版の報告書を公表するよう求めていたという。メディア対応にも後ろ向きで、「取材には応じておらず、不正の詳細も明らかにしていない」(朝日新聞デジタル・7月7日配信)などと伝えられていた。

今回の報告書公表でも「ケムに巻こうとしているのでは」と、うがった見方をしたくなる点は多々ある。たとえば発表文に「再協定」や「タワー牽引」といった、一般消費者には耳慣れない単語が並んでいるのを見ると、「損保業界や霞ヶ関にしか、目が向いていないのでは」と、ネガティブな感想を覚える人も少なくないだろう。もし適切でない請求によって、自動車保険の等級が下がれば、保険料が高くなり、一般顧客が直接被害を被る可能性もあるにもかかわらずだ。

また、公式サイトに掲載された報告書のPDFファイルは、スキャニングしたものなのか、文字なのに画像形式で構成されている。単純にパソコンでの作業に不慣れな社員が多かった……などの可能性もあるので、意図して「ガビガビの報告書」になったのではないのかもしれないが、めざといネットユーザーからしてみると「検索エンジン避け」や「コピー&ペーストでの拡散防止」のような印象を受けてしまう。

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