安宅和人氏が語る「AI時代」こそ必要な"生体験" テクノロジーの賢人が語る「ChatGPT」と「教育」

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――「タイパ(タイムパフォーマンス)」を求める現代人とは正反対の指針ですね。

今は情報量が爆増している。30年前の100倍を軽く超す情報が流れているのではないか。「タイパ」を求める人は、溢れる情報に追いつこうと汲々としている。

ただ実際は、そうして得る情報の多くは「ゴミ」かもしれない。真に価値のある情報を見分けられれば、「見ない」という選択ができる。それが出来ない人は、情報受容のキャパシティが足りなくなり、タイパを追求することになる。

人を”機械"にする教育の時代錯誤

結局、重要なのは「知覚」を磨くということになる。「タイパ」の時代は終わり、「知覚」の深さと質を重視する時代が来る。

――そうした力をつけるため、どういった教育が必要ですか。

安宅和人(あたか・かずと)・慶應大学環境情報学部教授、Zホールディングスシニアストラテジスト/1968年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てヤフー。ヤフーにてCSOを10年務めたのち2022年よりZホールディングス(現兼務)。2016年より慶應大学SFCで教え、2018年より現職。データサイエンティスト協会理事・スキル定義委員長。一般社団法人 残すに値する未来 代表理事。科学技術及びデータ×AIに関する公的検討に多く携わる。イェール大学 脳神経科学PhD。著書に『イシューからはじめよ』、『シン・ニホン』ほか (撮影:梅谷秀司)

一人一人が「知覚」を深め、そこから問う力を養い、深い知的体験を得られるような教育だ。だが、今の学校教育はこの部分が非常に薄い。

歴史の授業も、答えだけを教えている。例えばなぜ日本は明治維新であのように破綻したのか、学校の授業だけではわからない。「黒船の来航」、「安政の大獄」といった事柄だけを覚えさせられれば、黒船の来航がどうして安政の大獄のような政治的弾圧に繋がるのか、全くわからないままだろう。

計算ドリルみたいなものを、繰り返しやらせる教育も疑問だ。与えられた問いに早く正確に答えを出す力の価値は急激になくなっている。何の計算をしているか理解するのは大事だが、計算を100回やって100回正しい答えが出せる能力は、すでにほぼ不要だ。

「心のベクトル」という言い方を私は以前からしているが、その人なりの問題意識や、気持ちを伸ばす方向で人間を育てることがより重要になる。十把ひとからげではなく、10人いれば10通りの教育がある。軍事教練の延長で「気をつけ!前へならえ!」を今なおすべての子供たちに課している国はOECD(経済協力開発機構)のどこにもない。力で個性を抑えつける教育は根本的に間違っているし、なくなるべきだ。人間を”機械“として育成するのを改め、素直にやりたいことがある人間を育てる方が大事になる。

その中で先生が説明できない隙間を埋めるためにLLM(大規模言語モデル)を使うのはすごく有用だと思うし、関心の赴くままに調べまくることは信頼できる人間があまりいない状況では特に大事だ。

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