「我が家は普通」と油断する親が子に与える影響 医師おおたわ史絵氏が乗り越えた「母娘問題」

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開業医だった父親が亡くなった後、病院を引き継いでいました。40代後半、「残りの人生で何ができるか」と考えていたところ、声をかけていただいた法務省矯正局の医師「プリズン・ドクター」になりました。簡単にいうと刑務所のお医者さんです。総合内科専門医としてこの職場を選んだことにも、母親との関係や生きてきた背景が影響しています。

受刑者の多くに覚醒剤や麻薬が関連しているというのは想像にかたくないと思います。母親は私が中学生の頃から処方薬の注射の依存症でした。依存症家族として闘ったからこそ見える視点で、いろいろな事情があって薬物に依存した人の存在を理解できると考え、プリズン・ドクターになりました。

「依存するのは意志が弱いから、だらしないから、自業自得、危ないものに手を出した自分が悪い……」

こういったよくある誤解や偏見が根本にある医師ではできない。私のような背景を持つ医師がやるべき仕事だと思ったのです。

子どもは気づけない成育環境のいびつさ

親とのいびつな関係は、子どもの頃から始まっているのでしょう。ただ、生まれたときから自分と親との関係しか知らなければ、それをおかしいとは思いません。

実際、母が処方薬の注射の依存症でも、医師として働き始めるまでおかしいとは気づけませんでした。友人の家では母親が料理を作り毎朝、「いってらっしゃい」と言って学校へ送り出してくれるらしいというのも、知らなければ自分の家がそうじゃないのはどうしてだろうなんて思わない。自分の家はおかしいと気づいてしまった時点で、逃げ出したくなる、もがきたくなる人生が始まるから、子どものうちに気づくことが必ずしも良いことかどうか……私にはわかりません。

両親そろっていて教育にかけるお金が潤沢にある家庭であれば、親と子の関係が必ずいいのか。父親が融通が利かず、「こうでなければならない」「これ以外は許さない」「この学校に行かなければならない」「我が家の決まりからちょっとのズレも許さない」。加えて母親もそのような父親に言い返すことができない。

優秀な子どもは父親の意見に従って留学を強要され、それがものすごくいやで問題を起こすしかないと思いつめ、事件を起こしてしまう。あるいは、子どもは人と一緒にいるのが苦手で高校には行きたくない。親がもらってきた願書を燃やしてしまおうと考え、火事を引き起こし不幸にも母親と妹を死なせてしまう……。外から見れば一見、普通の家庭環境のようですが内情はどこかいびつというところで悲惨な事件は起きているように思います。

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