樋口恵子さん「89歳で乳がん全摘手術」で学んだ事 上野千鶴子さんは「転倒組に仲間入り」を報告

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樋口:最近こんな出来事がありました。長年長電話を楽しむ友人のひとりから連絡がありまして、「樋口さん悪いけど、この頃あなたの電話の声が聞き取りにくくなって、ごめん、これからは手紙を書いてくださいよ、そうしたら私も返事を出しますから」って。

そうか耳が聞こえなくなりゃ、電話をやめて手紙を書けばいいのかって思っていましたところ、翌日くらいに、これもまた別の友人から電話が入りました。大変気遣いをするお方で、忙しい樋口さんの大切な時間を取ってしまうのは悪いから、あんまり電話をかけないようにするわって常日頃言うような人なんですけど、その彼女が、「これからは月に2回くらいでいいから朝のあまり忙しくない時間帯に電話をかけていい?」とおっしゃる。

何かと思ったら、利き腕の人差し指、中指、薬指が動かなくなっちゃったそうで、どういう病気か説明を聞きましたけど、忘れました。筆忠実で有名な方だけど、彼女はもう手紙が書けないんです。それで「たまに電話かけていい?」となった。

つくづく私は、老いというのは一般化共通化しているように見えながら、老いゆく人のひとりひとりの身の上は非常に多様で個性的だと思い至りました。ある人は手紙が書けなくなる。ある人は耳が聞こえなくなる。そういう具合に老いというのはなんと個別性があるのだろう。そうした視点も、老いのコミュニケーションに取りいれな いといけない。

結論を申しますと、私も上野千鶴子先生の軍門に降りてパソコンを教わります。

テクノロジーの勉強にやめどきはない

上野:そうおっしゃってくださってありがとうございます。手紙を書けなくなったらEメールを使えばいい。指先だけで打てますし、耳が遠くなっても字は読めます。それにパソコンは今音声出入力が可能です。これまで気丈だった方が月に2回お電話くださいよっておっしゃるなら、オンラインで顔の見える機能を使えばいい。

『最期はひとり 80歳からの人生のやめどき』(マガジンハウス)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

使える道具はどんどん使ったほうがいいと思います。テクノロジーの勉強にやめどきはございません。電話が入ってきたときに使えなかった人がいます。電気釜が入ってきたときにも使えなかった人がいるんです。

でも今は、電話を使えるのは当たり前、電気釜を使えるのも当たり前となりました。機械の内部のしくみはわからなくても、操作さえできればいい。それだけテクノロジーは進化してきました。だから高齢者の皆さんも、学んでくださいとわたしは言い続けております。

樋口:上野さんがおっしゃることに概ね反論はいたしません。要するに、技術の方法はたくさんあったほうがいいということ、それについてはなんの異論もございません。

上野さん(左)と樋口さん。いつまでもお元気な2人(写真:マガジンハウス提供)
樋口 恵子 東京家政大学名誉教授/NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長

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ひぐち けいこ / Keiko Higuchi

一九三二年東京生まれ。東京大学文学部卒業。時事通信社、学研、 キヤノン株式会社を経て評論活動に入る。著書に『老~い、 どん! あなたにも「ヨタヘロ期」がやってくる』『老いの福袋 あっぱれ!ころばぬ先の知恵88』などがある。

 

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上野 千鶴子 社会学博士。東京大学名誉教授

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うえの ちづこ / Chizuko Ueno

一九四八年富山県生まれ。京都大学大学院修了。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学・ジェンダー研究のパイオニアとして教育と研究に従事。著書に『家父長制と資本制』 『おひとりさまの老後』『在宅ひとり死のすすめ』などがある。

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