樋口:私は16歳上野さんと違いますので、15、6年前から転倒適齢期に入っておりまして、とにかく転ばないようにする、転んでもおおごとにならないようにするということに、私など運動神経のまるでないような人ですけれど、それでも体育会系と言いましょうか、そちらのほうに切り替えております。老いも後半に入ると、転ばないことは健康にとても大切です。
上野:樋口さんのほうはいかがでしょう? ここしばらく樋口さんがお元気なさそうだと思ってましたら、乳がんの手術をなさったと伺ってびっくり。
樋口:はい。89歳のある日、もうすっかりご用済みだと思っていた左乳房にがんが見つかりました。おかげさまで年ですので、がんそのものに勢いがない。ほっておいても急に悪さをするわけではないけれども、徐々に大きくなっていってることだけは確かで、いくつかの選択肢はございましたけれども、全摘出することになりました。それが、がんで死なない一番の方法だと言われました。
手術は2022年の4月、ちょうど90歳の誕生日の半月ほど前。病気ばっかりして育ったものですから、90歳までよくぞ生きられたと感謝感激でしたが、がんのこともありましたので「90歳めでたき身にはがんも棲む」という一句を作って、今年の記念とした次第でございます。
100歳になっても「乳」も身の内
上野:90歳になっても外科的な手術ががんの標準的な治療なんですか?
樋口:私も先生に申し上げました。90ですよって。そうしたら先生からは100歳でも手術をする方はいますって。
上野:ほうっておくという選択肢もありましたか?
樋口:人によりけりのようです。でも90でもがんだけ威勢のいい人もいるかもしれない。私の場合は年齢相応に大人しいので、他の余病で死ぬ可能性も高いと言われました。がんで死なないためには全摘が一番ですが、特に75歳以上の後期高齢者の方々には、手術しようかどうかで迷ったらお考えいただきたいですね。
私もあと2、3年で死ぬんだったら、手術なんてしたくなかった。ですけれど、どうなるかわからないわけですね。そもそも90歳で手術できるかわからない。全身衰弱してますので、心臓がもつか。だから心臓の検査に一番時間をかけていただきました。全身麻酔に心臓がもちこたえるかどうかが大きなチェックポイントのようでした。ずいぶん綿密に慎重に検査をしていただき、麻酔時間が短くなるよう高齢者用に考えられた手術となりました。
上野:このお年で全身麻酔で手術なさるなんておおごとですから、気持ちも落ち込むでしょうし大変な思いをなさったでしょうね。
樋口:自分でも意外でしたが、結構動揺いたしました。皆さまにおかれましても、どんなにご用済みの器官でも体の中に備わっている限りは、その乳房ががんになりうるということですので、どうぞお大切にして時々注意を払ってくださいませ。
上野:予防できるわけではありませんけど。
樋口:命ある限り、自分で触ったり、鏡に映したりして、御身の健康状態の確認は怠らないよう。100になっても乳も身の内でございます。