人生100年時代に、身ひとつ軽やかに最期を迎えるための心構えとは。『最期はひとり 80歳からの人生のやめどき』から一部抜粋・編集のうえ、お届けします。
トイレ問題で諦めていた「オペラ鑑賞」
樋口:私は美術と音楽でいえば断然音楽が好きなのよ。若い頃は海外ツアーのおっかけもやってました。
上野:樋口さんはオペラファンですものね。
樋口:ええ。でも年とともにだんだんツアーに行けなくなるの。まず、海外にはわりと早くに行けなくなりました。徐々に収入が減りますから、高いオペラのチケットも買いにくくなるし。
オペラのファンをやっていると、いつの間にか仲間ができるもので、私にも、いい来日公演があるとすぐに連絡をくれて、チケットを手配してくれる方がいたんです。仲間と一緒になって、長い幕間に今日のソプラノは悪かっただのテノールは結構歌っていただの、偉そうに批評をするのがこのうえない楽しみでした。
そんな仲間たちも年齢と共に運動能が落ちて、だんだん海外に行けなくなって。次には、東京文化会館やサントリーホール、NHKホールにも行けなくなって。行けたとしても、トイレが近いものだから落ち着いて観ていられないのね。せめて、今みたいに600グラムも吸収してくれる、いい尿もれパッドがあればよかったんだけど、 残念ながら10年前にはありませんでしたからね。
要するに、オペラは一幕1時間がザラですから、1時間の座位が保てなくなると、仲間との観劇も消滅なのです。
上野:ああいう介護用品、進化しましたよね。
樋口:そのおかげで英国ロイヤル・オペラが来日して『ファウスト』を上演したときは珍しくひとりで行ってきました。うちのスタッフたちに、「行けるうちが花ですよ」と蹴飛ばすように送り出されて。
上野:なんとお優しいスタッフの方たち!