「円安一服の先」を大局的に捉えるデータの見方 「経常赤字か黒字か、それが問題」ではない

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ここではキャッシュフローを加味した第1次所得収支、ひいては経常収支の実態を示してみたい。

例えば2022年の第1次所得収支を受け取りベースで見ると、2022年は約50兆円あった。

このうち証券投資収益は18.5兆円、直接投資収益は27.6兆円、その他投資収益は3.7兆円である。証券投資収益のほとんどは債券利子と配当金であり、普通に考えれば外貨のまま再投資される公算が大きい。また、直接投資収益のうち約半分の13兆円は再投資収益である。これは確実に円転されない。

第1次所得収支黒字はそのまま「円買い」にならない

まとめると第1次所得収支(受け取り)の50兆円のうち、7割相当の約31.5兆円(18.5兆円+13兆円)が円転されていない恐れがある。裏を返せば、3割相当の約18.4兆円しか実際の円買いにつながっていない可能性が推測される。

これらは受け取りベースの議論なので、より正確を期すならば支払いベースでも同じ議論をして、収支の仕上がりを評価する必要がある。

支払いは約14.7兆円あり、このうち証券投資収益は約8.2兆円、直接投資収益は約4.4兆円、その他投資収益は約2.0兆円であった。上記の日本の例に準拠し、証券投資収益(8.2兆円)と直接投資収益の中の再投資収益(約1.7兆円)は外貨に転じられない(円のまま残る)とすると、支払いベースでは約4.8兆円の円売りになる。

以上をまとめると、2022年の第1次所得収支黒字における本当の円買い部分は約13.6兆円(18.4兆円-4.8兆円)というイメージになり、これがキャッシュフローベースの第1次所得収支黒字である。

第1次所得収支の公表値である約35兆円とはかなり乖離があるが、「2022年の経常黒字が11兆円あっても、大幅な円安が進んだ」理由として考える1つの仮説としては有用だと思っている。

少なくともドル円相場で起きていることの森羅万象を日米金利差だけで整理しようとするムードに対し、こうした論点が付け入る隙は十分あると筆者は2022年以来、考えてきた。

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