「円安一服の先」を大局的に捉えるデータの見方 「経常赤字か黒字か、それが問題」ではない

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このうえで2022年を例に取れば、貿易サービス赤字は約21兆円を記録し、このほとんどすべては円売りとして為替市場に現れていたと思われる。先述の通り、キャッシュフローベースの第1次所得収支黒字が約13.6兆円しかないのだとすると、キャッシュフローべースの経常収支は9兆円ほどの赤字だった疑いがある。

キャッシュフローベースの経常収支の実状グラフ

ヘッドラインの経常黒字はあくまで「会計上の黒字」であって、それらすべてが円買い圧力になっているわけではないことがわかる。

CFベースで経常赤字だった年は円安

ちなみにキャッシュフローベースの経常収支が2022年と匹敵するほど赤字(9兆円以上)だったのは2013年と2014年だが、いずれの年も円は対ドルで10%以上下落している。

当時は、異次元緩和に象徴されるアベノミクスが最も取り沙汰されていた時代であり、「円安は日銀の金融政策に起因するもの」という言説が支配的だったが、本当にそうなのか。もちろん、無関係とは思わないし、FRBの正常化プロセスへの転換や欧州債務危機の終焉といった外部環境の改善もあったはずだ。

しかし、日本の対外経済部門に目をやれば「円を売りたい人のほうが多い」というシンプルな需給が整いつつあったのが2013~2014年頃だったという考え方も捨て置けないものである。

もちろん、これらは筆者の仮説であるし、絶対真実だと言うつもりはないが、ドル円相場の方向感を日米金利差だけで語ろうとしたり、株高のムードにかまけて円安の弊害をなかったことにしようとしたりする論調にはあまり賛同できない。

歴史的と呼べる円安局面はもう1年4カ月以上続いている。

ドル円チャート

歴史的な相場を前に、歴史的な(そして、おそらくは構造的な)変化の可能性を考えるのが真っ当な分析姿勢ではないか。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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