「日銀は政治に支配され、動けなくなった」 ストラテジストの森田長太郎氏に聞く

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森田長太郎(もりた・ちょうたろう)●SMBC日興証券 チーフ金利ストラテジスト。慶応義塾大学経済学部卒業。日興リサーチセンター、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、ドイツ証券、バークレイズ証券を経て2013年8月から現職。日本の国債市場での経験は通算で20年超に及ぶ。グローバルな経済、財政政策の分析などマクロ的アプローチに特色。機関投資家からの人気が高い。近著に『日本のソブリンリスク』(小社刊・共著)。『国債リスク 金利が上昇するとき 』(小社刊)(撮影:田所千代美)

原油価格が日銀の想定しているような1バレル当たり70ドルに速やかに戻ったとしたら、原油価格は年末近くには前年比でプラスに転じる。まだ10月の「展望レポート」の段階では、「ここから物価が上昇する」という見通しを示して、同レポートの中間評価を行う2016年1月まで引っ張るのではないか。さらに2016年4月の「展望レポート」まで何もしない可能性もある。

そこまでいっても、7月には参議院選挙があるので、それとの絡みで政治的な判断とならざるを得ない。さらに円安を加速するからダメ、ということになるかもしれないし、あるいは株価が下がっていれば株価を持ち上げるために政治的圧力が強まる結果、やるかもしれない。

2%との乖離は少なくともまだ1~2年では埋まらない。しかし、年間80兆円の国債の買い上げはオペレーション上も行き詰まってくる。もはや2%はシンボリックなものでしかなく、デフレに戻らず物価が緩やかに上昇していけばいい、ということになるのではないか。

 リフレ派の主張は実現せず

――結局は政治の要請で決まるということですね。

日銀、FRB(米国連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)を比べて見たときに、日銀がもっとも政治に従属している、ということになってしまった。FRBはファンダメンタルズと市場とのギャップを修正しようとしているが、日銀はそもそも2年で2%のインフレ目標の実現というファンダメンタルズからまったく乖離した目標を掲げてしまったから、修正どころじゃなくなっている。

――そもそも、安倍政権のもとで日銀が採用したいわゆるリフレ派の人たちの主張である「マネタリーベースを積み上げればインフレになる」という理論が間違っている?

すでにかつての翁・岩田論争(注)で決着している。マネタリーベースとインフレは関係ない。銀行が持っている国債と日銀の当座預金を交換する取引でしかないからだ。市中に出回っている広義のマネーとインフレとの関係ですら曖昧だ。円安はマクロ的に見れば日本経済にはプラスであり、インフレの要因にはなる。だが円安自体も金融緩和がきっかけではなく、欧州の債務危機がおさまったことで、2012年秋には100円に戻っていた。あとはアナウンスメント効果だけだ。

(注)翁・岩田論争は、当時の翁邦雄・日本銀行調査統計局企画調査課長(現・京都大学教授)と岩田規久男・上智大学教授(現・日本銀行副総裁)によって1992年9月から『週刊東洋経済』誌上で展開されたマネタリーベースとマネーサプライの関係、その効果をめぐる論争。1993年3月まで続いた。

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