観光資源の「過保護ライオン」が生んだ悲しい現実 日本人サファリガイドが南アフリカで直面したこと
クルーガー国立公園を含むグレートリンポポトランスフロンティアパークでは2009〜2018年の10年間で43頭のライオンが毒殺されました。歯や爪を売るために、頭や足が切り落とされたライオンの死体が多く発見されています。私自身は密猟されたライオンに出会ったことはまだありません。しかし、どの動物でも罠に引っかかっているのを見た時は、とても残念な気持ちになります。人間の都合で酷い目にあってしまっていることに、同じ人間として本当に申し訳なく思います。
このように密猟や住民との軋轢、生息地の減少など、ライオンは様々な問題を抱えており、過去20年間で43%も減少したと言われています。地域住民の生活を守りながら、野生のライオンたちがこれからも繁栄できるようにするにはどのような活動が必要でしょうか?
観光のために「過保護」にされた王様ライオン
現地では、地域住民との連携、罠の除去、密猟者の取り締まり、絶滅してしまったエリアへの再導入など様々な活動が行われています。広大なサバンナを地道に歩きながらパトロールして、密猟者に仕掛けられた罠を発見しては取り除く作業を行っているレンジャーや、ライオンの動きや数をモニタリングするリサーチチームなどが保護活動に大きく貢献しています。
保護活動の難しいところは「過保護との線引き」です。東アフリカのケニアに保護区や観光客の間で有名になったオスライオンがいました。オス同士の縄張り争いの中で顔に大きな傷を負いつつも、戦いに勝ち広大な縄張りを制し続けたこのオスは、強さの象徴として一躍人気のキャラクターとなりました。旅行客は百獣の王を思わせる彼を一目見たいとサファリに来るようになり、彼の顔の傷が悪化すると、大事に至る前に獣医が介入し治療をしてきました。
前述したように厳しいライオンの社会では、多くの場合数年で群れのリーダーが入れ替わります。しかし獣医が介入し続けたり、いずれ縄張りの王の座を狙っていたかもしれない若いオスライオンが地域住民との軋轢で殺されたりしていることも影響してか、なんとこのオスライオンは約8年間も王の座に居続けました。治療のおかげもあり、通常の野生のオスライオンの平均寿命をはるかに超えたこの長寿のリーダーは、多くの観光客を引き寄せる重要な存在になった一方で、遺伝的多様性への懸念ももたらしました。
本来は新たなオスがリーダーとなることで、より強い遺伝子が定期的にプライドに流れてきます。しかしずっと同じオスが王の座に居続けると、近親交配のリスクが高まってしまう可能性があります。実際に一部のメスライオンが群れを離れ始めるなど、ライオンの社会構成にも影響をもたらしたという研究者もいます。
密猟や住民との軋轢など、人間が原因で生じてしまった怪我の場合と違って、自然界の中で生じた怪我への介入は慎重に考えなくてはなりません。よかれと思って行った保護活動が、長期的にみるとかえって悪影響を生んでしまうなんてことがないように、観光上の都合や人間の感情は排除して、自然のあるべき姿を守れるようなベストな関わり方を考えることが大切なのです。
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