人間同士の「対立」が激しくなっている納得の理由 人と同じものが欲しくなる模倣の欲望の仕組み

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――本書では「薄い欲望(うわべだけのはかないもの、長く続かない模倣の欲望)」「濃い欲望(薄い欲望より模倣性は低く、時間とともに形になる)」という言葉が出てきますが、権力はどちらなのでしょうか。

「薄い欲望」は、高度に模倣的で短期的で儚いものです。あまり長くは続かない。今日欲しいけど、来週は無理だろう、来年も無理だろうというものです。一方、「濃い欲望」とは、永続的なものであり、長続きするものです。濃い欲望は、最終的に満たされ、幸せにつながるような欲望である可能性が高い。

権力がその永続的な幸福感につながることはないと思うので、複雑な問題です。

権力というのは、ある程度手に入れたら、もっと欲しくなってしまうものです。それが薄い欲望の特徴の1つであり、完全に満たされることはないのです。それが薄っぺらい理由です。なぜなら権力の「量」はほかの誰かが持っている権力の量とつねに相対的に、比べることでしか測ないからです。

私の考えでは、権力とは根本的には手に入らないもので、幻想であり、薄い欲望なのです。たとえ、ある人が生涯にわたって権力を追い求め、欲望を持ち続けたとしても、それが濃い欲望とは言えません。残念ながら、こうした薄い欲望を長い間追い求めることは可能です。

SNSで欲望のモデルがとんでもなく増えた

――「薄い欲望」を駆り立てるものとして、SNSの存在は大きそうです。

私がこの本で注目したかったのは、SNSが私たちの欲望にどのように影響するかということです。

SNSでは、ほとんどの人がほかの人がモデルとなっている膨大な量の欲望にさらされています。どんな服を着るべきか、どんなキャリアを望むか、どんなライフスタイルを送るか。特にライフスタイルについては、非常に強力な影響を及ぼしています。特に若い人たちの欲望のレベルへの影響は大きい。

25年前、私が高校生だった頃、SNSの影響はありませんでした。私が触れることのできた欲望のモデルは、同じ学校にいた子たちに限られていました。彼らがどこの大学に行きたいのか、どんなライフスタイルを望んでいるのか、どんな職業に就きたいのか。私の学校は小規模で、生徒数は300人ほどでしたが、それが私の欲望の世界のすべてだったのです。

一方、今私のポケットの中にはスマホが入っていて、それを通じて何十万、何百万もの欲望のモデルに触れることができる。これは信じられないほど強力なことです。それが私にどのような影響を与えるかを理解することはとても重要です。

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