「部下をダメにする人」が見落とす"人材育成の罠" 「人材を育成する力がない」リーダーはいない

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もし自分の考え方やモノの見方を形式知としてまとめてあれば、自身のアルゴリズムを再インストールするように、スランプから自分で脱するきっかけにも使えます。

(3)マネジャー間に「保護者会」的なつながりを構築する

新人たちは、お互いによく似た課題に直面していることがあります。他部門との折衝が苦手だとか、仕事の完了時間を見誤りがちだとか、社内の暗黙知に不案内など、誰にとってもいつか来た道です。また、初めて新人を担当するマネジャーには「新人が困っていること」がよく分からず毎日が発見だ、ということも珍しくありません。新人時代の自分自身も似たようなものでしたが、ある程度の年数がたっていてあまり覚えていないのです。もし覚えていたとしても、上司の視点で見える景色は随分と異なるものです。

そこで、新人を受け持つマネジャーたちが定期的に集まる機会を設定します。Aブランドに配属された新人と、Bブランドに配属された新人が似たような課題を抱えているとき、それぞれのブランドマネジャーが独自に解決してもいいですが、解決方法や進捗を共有することで、よりよい解決につながるかもしれません。1人で考えるよりも2人で考えるほうがいいアイデアが出てきそうですし、複数の視点から眺めることでより広く深い洞察ができます。

このように皆で集まる機会は、マーケティング部長やCMOといった、部門を統括する上長が設けるといいでしょう。

最初の会合では、それぞれの「育成計画書」を共有し、お互いにアドバイスし合うのも有益です。全新人の育成計画やプロジェクトリストが、程よく同程度に難しく、必要な経験を等しく得られるよう工夫しましょう。その際、新人を受け持つマネジャーたち全員が、自分のチームや部下だけでなく、マーケティング組織全体の成長を意識することが重要です。会合を主催する部門長やCMOがそうした全体意識を促しましょう。

「ランチ会」がなぜ有効なのか

全てのポジションは固有で、お互いに異なる仕事をしていますが、得られるスキルや経験値の標準化は不可能ではありません。サッカーとオーケストラでは、活動内容が大きく異なります。

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しかし「各員が専門性を持つチーム」の中での「個人技の発揮」や「効果的な連携」といったスキルは似ていることでしょう。同じマーケティング組織内であれば、1年目で必要とされるスキルをそれぞれのプロジェクトから得る方法が、きっと見つかりそうです。

私がCMOをしていた組織では、新人を部下に持つマネジャーたちを招いて、毎月ランチ会を主催していました。参加を強制するものではありませんでしたが、出席者には(CMOの予算から)上質なランチが提供されていました。既に経験を積んだマネジャーには、若いマネジャーたちに知見を共有してもらう場としても有意義でした。

毎年繰り返すことで、この会議体には新人の育成に関する知見が蓄積されていきます。改善・強化を繰り返すことで、よりよく経験値を獲得できる仕組みを構築できると思います。

音部 大輔 マーケター/クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役

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おとべ だいすけ / Daisuke Otobe

日本と米国のP&Gで17年間ブランドマネジメントやイノベーション方法の確立などに従事した後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など複数のブランドを擁する企業でブランドマネジメント組織を指揮・構築。組織強化を通したブランドの成長を実現。2018年1月より現職。博士(経営学 神戸大学)。著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)、『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)、日本マーケティング学会「日本マーケティング本 大賞2022」を受賞した『The Art of Marketing マーケティングの技法 - パーセプションフロー・モデル全解説』(宣伝会議)などがある。

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