「部下をダメにする人」が見落とす"人材育成の罠" 「人材を育成する力がない」リーダーはいない

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そうした触媒的な役割は、OJTでの10の経験が、15や20の経験値になる係数として機能します。そこでいくつかの企業で実践してきた、新人育成の3つのヒントをお話ししようと思います。

(1)目指すべき「2年目」の姿を明確にする

「目的の明確化」は、戦略やマーケティング活動だけでなく、育成においても重要です。それぞれの個人が「5年目にどうなりたい」か、「10年目にどうありたい」か、その先に「いずれどのような立場でどういった仕事をしたい」か、といった議論が面談などで交わされることがあります。

「キャリアビジョン」などと呼ばれますが、これを上司や会社と共有しておくことは、次回の配属先を決める際だけでなく日々の仕事の仕方などにも影響します。同じ仕事や作業でも、自分のキャリアビジョンへの影響を理解することで、より多くの経験値を稼げます。

新人の場合は、個々人が目指すべきものに加え、組織として「2年目までに獲得しておいてもらいたいスキルや経験」を定義しておきましょう。見過ごされがちですが、新人が有意義な1年間を過ごすためには、1つ上の年次である2年目の先輩が立派に育っていることも重要です。優秀な2年目は、新人にとって分かりやすい目標となり、またカジュアルなアドバイスなどももらいやすいからです。

通常のマーケティング組織では、マーケティング関連の社内手続きの理解、ブランドの定義や中期短期のビジネス目標の把握、市場シェアなどの分析、質的あるいは量的な消費者理解の方法といった領域で、1年目の間に経験しておくべきことを示します。

育成の仕組み化は上司の役割を矮小化するものではない

(2)「仕組み化」でマネジャー間の育成格差をなくす

「2年目までに獲得してもらいたいスキルや経験」が明示できたら、全ての新人全員がもれなく確実に達成できるよう、1年分の「育成計画書」を用意しましょう。10年目の腕利きのマーケティングリーダーになるためには、多様な経験や巡り合わせなど不確実な要素も必要になりそうですが、「優秀な2年目」には新人全員がなれると思います。そのための工程や手続きを示すのが「育成計画書」です。各マネジャーが、自身の部下の新人が担当するプロジェクトなどを勘案しつつ作成します。

育成の仕組み化や標準化は、上司であるマネジャーの役割や個性を矮小化するものではありません。こうした標準化されたメニューは「最低限、獲得すべきスキル」であって、「これ以上は教えてはならない」というものではないからです。

むしろ標準化されたメニューが設定されていることで、それぞれのマネジャーや担当するプロジェクトに、固有のトレーニングを実施しやすくなるでしょう。大きなブランドには大きなブランドなりの学びがありますし、小さなブランドには小さなブランドに固有の経験があります。

育成する上司がたどってきたキャリアによって、それぞれに得意不得意もあると思います。標準メニューに加え、各上司が得意とする領域の知見も提供していきましょう。教えることで、上司にとっても思わぬ経験値の獲得につながることがあります。自分の強みや考え方のアルゴリズムは通常、暗黙知として備わっています。「教える」という行為は、そうした暗黙知を形式知化する必要に迫られます。普段は暗黙知で問題なくても、スランプに陥るといつものように考えられなくなることがあります。

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