「プリゴジンの乱」で揺らぎ始めたプーチンの大義 クレムリン内で戦争への積極・消極派の両極化が進む

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しかし、スロビキン氏は結局合流どころか、反乱を中止するよう呼び掛ける声明を出して一線を画した。対ウクライナ軍事作戦で副司令官も務めるスロビキン氏がプリゴジン氏と完全に袂を分かったか否かは不明だが、今回の反乱劇に成功の見通しはないと判断したのだろう。

一方で、軍高官の中には今回の反乱には合流しなかったものの、早期の停戦を求める意見は少なくないと言われる。拡大する米欧からの大規模な武器供与を受けたウクライナ軍に対する軍事的勝利を信じる軍高官は少なくなっていると言われる。

これに絡み、筆者は信頼できる重要な証言を得た。実はショイグ国防相自身が大統領に対し、軍事的勝利の目途は立っておらず、ウクライナとの間で外交的解決を目指すべきと進言しているというものだ。これに対し、ゲラシモフ参謀総長は継戦を主張しているという。

しかし、今のところプーチン氏がウクライナとの交渉による解決に動く素振りは示していない。最近の言動を見た専門家の間からは「現実認識を失っているのではないか」との危惧の声も出始めている。

戦局悪化なら「プーチン降ろし」も

2023年6月12日のクレムリンでの会合でも、プーチン氏はロシア軍がミサイルなどで住宅などを攻撃し、多数の住民に死者が出ているのにもかかわらず「われわれは民間人を攻撃していない。そんなことをしても意味はない」と真顔で発言し、ウクライナ側を驚かせた。

極め付きは、停戦仲介のためモスクワを訪問したアフリカ諸国代表団との会談だ。各国首脳がプーチン氏に対し、さまざまな質問や提言をしたにもかかわらず、プーチン氏はまったく回答をせず、滔々とウクライナと西側を批判する持論を展開したといわれる。このプーチン氏の対応には、ロシアに親近感を持つと言われるアフリカ代表団も失望したという。

つまり政権内で、上記した継戦消極派と、プーチン氏に代表される侵攻継続派との間での「両極化」が進んでいると言える。となると、侵攻の行方がますますプーチン氏の政権維持の命運に直結する可能性が高まったとも言えるだろう。

2023年初めごろまでは、侵攻が結果的に失敗してもプーチン氏自身が大統領ポストに残る可能性はあると西側でも考える向きがあった。ロシア国内での政権基盤が強いからだ。しかし、侵攻が最終的に頓挫に向かえば、プーチン氏の判断力に疑問符が付き、クレムリン内や軍部内で「プーチン降ろし」の動きが起こるシナリオもありえるだろう。

おまけに今回の反乱劇の収拾交渉にベラルーシのルカシェンコ大統領が当たり、プリゴジン氏を説得したこともプーチン氏にとって、大きな政治的ダメージをもたらすのは必至だ。これまで「強い指導者」のイメージで国民から高い支持を得てきたプーチン氏の威信低下はさけられないだろう。その意味で、ロシアの政局は軍部の動向も含め、ますます波乱含みになっていると言える。

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