「プリゴジンの乱」で揺らぎ始めたプーチンの大義 クレムリン内で戦争への積極・消極派の両極化が進む

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いずれにしても、ウクライナ軍としては、沿岸のこれらの都市を制圧することで、ロシア本土からウクライナ南部のヘルソン州やクリミア半島に至るロシア軍の最大の補給路である「陸の回廊」を寸断することを狙っている。

さらにウクライナ軍は、ヘルソン州でも密かに作戦を展開しているもようだ。南部カホフカ水力発電所のダム決壊を受け、ロシア軍はヘルソン州のドニエプル川の南側地域に配置していた部隊をザポリージャ州や東部ドネツク州バフムトに転戦させた。下流域の洪水によって、ドニエプル川北側にいるウクライナ軍による大規模な南側への渡河作戦が困難になったと判断したためだ。

クリミアへの作戦を進めるウクライナ軍

しかし、同軍事筋は実際にはウクライナ軍は渡河作戦をすでに実施しており、南側で作戦を展開していると述べた。ウクライナ軍は、他の地域では認めている外国メディアによる戦場取材をこの地域では認めていないため、作戦の詳細は不明だが、作戦エリアのさらに南にあるクリミア半島への軍事作戦の準備とみられる。

これを示唆するかのような作戦も実施された。2023年6月22日、ヘルソン州とクリミア北部を結ぶチョンガル橋がミサイル攻撃を受け、大きく損傷した。イギリスが供与した長距離空中発射型巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われたとみられる。

反攻作戦開始後、クリミアが本格的なミサイル攻撃を受けたのは今回が初めてだ。このチョンガル橋は先述した「陸の回廊」がクリミア半島内に入る結合部分にある交通上の要所だ。クリミアの補給路は大きなダメージを受ける結果になった。

本格的反攻作戦への移行に伴って、アメリカなどで訓練され、米欧軍の装備で固めたウクライナ軍の新部隊もついに戦場に投入される。9つの旅団で構成する計3万6000人の部隊だ。米欧から供与された戦車なども本格的に投入される。

ウクライナ軍としては、できれば、7月11日から2日間の予定でリトアニアで開催されるNATO首脳会議までに何らかの戦果を誇示したいところだろう。いずれにしてもウクライナの軍事専門家ロマン・スヴィタン氏は順調に反攻作戦が進めば、8月末までにウクライナ軍がロシア軍の防衛線を突破して、アゾフ海沿岸に到達できるとの見通しを示した。

ウクライナ軍としては、今回の反乱事件でロシア軍の士気がますます下がるのは必至とみて、攻勢を強める構えだろう。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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