「プリゴジンの乱」で揺らぎ始めたプーチンの大義 クレムリン内で戦争への積極・消極派の両極化が進む

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一方、2023年6月4日に始まったウクライナ軍による反攻作戦の方は、新たな局面を迎えそうだ。ウクライナの軍事筋は反攻開始から3週間が経過した6月末、より大規模な領土奪還作戦が、近く始まる見通しだと筆者に明らかにした。

これまでの反攻作戦は、ロシア軍の防衛陣地の状況や弱点を調べるために大隊規模で探りの攻撃を行う「威力偵察」だ。ロシア語で「手探り」を意味する「ナシューパチ」作戦と呼ばれている。

この作戦で、ロシア軍の防衛ラインで守りが弱い地点を見つけて、ここを旅団規模の大部隊で突破。本格的反攻作戦に移行するというのがウクライナ軍の戦略だ。

この手探り作戦では当初、失敗もあった。ドネツク州でウクライナ部隊が防御線の突破を図ったものの、ロシア軍の巧妙な反撃を受けて、ドイツが供与したレオパルト戦車やアメリカ提供の装甲歩兵戦闘車ブラッドレーなどを何台か失う事態も起きた。

ロシア側の強固な防衛体制を崩せるか

これについて、ロシア国防省側が戦果を誇張して大々的に映像付きで報道した。このため、ウクライナの軍事専門家からも「反攻作戦をめぐる情報空間がロシア側に独占されている。われわれもより積極的に戦果を発表すべき」とのいら立ちの声が出たほどだ。

事実、ロシア軍は今回の反攻作戦に対する防衛態勢をしっかり準備していた。ウクライナ軍が2022年秋、ロシアから相次いでハリコフ州やヘルソン市を比較的容易に解放した際と比べ、防衛網の構築期間が数カ月と十分あったため、約1000キロメートルの前線付近で多重の防衛線を築いた。

この防衛線は塹壕、地雷原、戦車の進軍を阻む障害物ラインなどで構成されている。おまけに攻撃用ヘリの大量投入や電子戦作戦による通信妨害など、これまでに戦闘で使っていなかった新たな戦術を採用して、ウクライナ軍を悩ませている。ただ兵力的には防衛線に十分配置されているわけではないという。

これに対し、ウクライナ軍は塹壕を歩兵部隊で一歩一歩制圧していくなど、地道な作戦を展開している。ウクライナのゼレンスキー大統領が2023年6月21日放送のイギリスBBC放送のインタビューで、反転攻勢の進展が「望んでいたよりも遅い」と述べたのも、このためだ。一方で、ウクライナ軍が防衛戦を各地で突破しつつあり、奪還地域を日々拡大しているのも事実だ。

しかし、ウクライナの軍事筋はロシア側の弱い場所がわかってきたため、本格的反攻作戦に移る段階に入りつつあると述べた。従来はアゾフ海沿岸の要衝であるザポリージャ州のメリトポリやベルジャンスクがこの作戦の有力候補と考えられていたが、沿岸の別の方面を最初に狙う可能性もあるという。

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