では、こうした異議申し立ての声を紹介しよう。一番代表的なのは、ロシア下院の最大与党「統一ロシア」の有力議員で、対ウクライナ政策にも関わっているコンスタンチン・ザトゥーリン氏の発言だ。
2023年6月初めのウクライナ問題に関する会合で、侵攻の大義がいまだに実現しておらず、一部の大義はすでに意味を喪失していると継戦に根本的な疑問を呈したのだ。
同氏曰く「われわれが聞かされていた計画では、侵攻開始後、国家としてのウクライナはなくなると言われてきた。しかし非軍事化、非ナチ化、ウクライナの中立化など侵攻の目的は、一つも達成できていない。侵攻計画は現実的でなかったのだ」と。
つまり、この批判は、侵攻の大義に根本的な疑問を呈したという意味でプリゴジン発言と軌を一にするものだ。
クレムリン中枢からも奇妙な発言が
さらに今回の侵攻がウクライナで結果的に悲惨な「人道的危機」を招いたとの反省の声が、ロシアの有力な軍事専門家からも出始めた。ロシア国民の戦争支持の世論づくりに奔走し、アメリカからも制裁を受けている「宣伝マシーン」の代表格であるマクシム・カラシニコフ氏だ。
自らのSNS映像で、ロシア軍が事実上制圧したウクライナ東部の要衝バフムトの破壊し尽くされた市街地を背景に見せながら、こう語り掛けた。「ドンバス地方が解放されても水道も電気もなく、住民は破壊されたアパートに住んでいる。世の終わりみたいだ」と。大規模な連日の砲撃で市街地を徹底的に破壊した侵攻作戦の意義に率直な疑問を呈したと受け止められている。
侵攻の大義をめぐっては、クレムリンの最中枢部から奇妙な発言も飛び出している。プーチン氏の側近であるドミトリー・ペスコフ大統領報道官がこう言った。「最近ウクライナが自国の兵器を使わず、西側の兵器を使うようになったのだから、ウクライナの非軍事化という当初の目的はほぼ達成されたのはないか」と。
ペスコフ氏のこの発言の真意は不明だ。しかし、ペスコフ氏は侵攻開始当初から、政権高官のうちウクライナへの武力行使に消極的な、いわいる「平和党」の1人と言われていた人物。侵攻継続への消極論を披瀝した可能性は否定できない。
こうした継戦への消極論の広がりを受け、プリゴジン氏は今回の武装反乱劇で軍部から同調の動きがあることを期待していたはずだ。しかし、合流は結果的に起きなかった。反乱劇発生直後、軍高官の中で代表的なプリゴジン派と見られているスロビキン航空宇宙軍総司令官が合流するのでは、との観測もあったくらいだ。
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