これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
「お恥ずかしい話、わたしが幼い頃から、父はほかの女性と家庭を築いており、家に帰ってくることはほとんどありませんでした。中学生の頃、わたしは部活動に一生懸命取り組んでいたので、時々両親が試合の応援に来てくれたのですが、もはや2人が話しているだけで、不自然さを感じるほどで。
父の新しい奥さんから電話がかかってきたのは、忘れもしない20歳の誕生日のことでした。『あなたのお父さんには、もうお金がない』と言い放たれて……」
高校2年生のときに両親は離婚し、父は自己破産
今回話を聞いたのは、原田智子さん(31歳・仮名)。九州地方のとある漁村の出身で、父親は7000万円の借金を抱えていたという。
「わたしの実家は祖父母の代から魚の養殖を営んでおり、祖母の死後、父が事業を引き継ぐことになりました。ただ、そこで借金を抱えたのでしょう。わたしが保育園に通っていた頃は、食卓に何品もの料理が並び、習い事などもさせてもらえていましたが、それ以降は子どもながらに生活も貧しくなっていくことがわかりました。そして、高校2年生のときに両親は離婚し、父は自己破産しました」
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