在日コリアンの日常に映る「北朝鮮」の重い影 映画監督で在日2世のヤン ヨンヒさんに聞いた

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――『愛しきソナ』のピョンヤン市内の外貨レストランでのエピソードでも、見ているだけで北朝鮮での生活がどんな環境かがわかるシーンがあります。ヤンさんは、ソナさんに「なんでも食べて」と言うんだけど、彼女はメニューブックを見てなかなか決められない。

「食べられなかったらどうするの?」と聞き返すんですよね。見るだけでもいい、経験することが大事だからと言うんだけど。当時のソナは、(ヤンさんの母親が仕送りをつづけ)学校でいちばん良いランドセルを背負い、良い服を着ている。しかも、私たちからすると、(ホテルの高級レストランというより)街場の純喫茶にあるようなメニューなんですよ。

「止めて」と言い出す前の姪のソナ。『愛しきソナ』より。©PLACE TO BE,Yang Yonghi ヤン監督の「家族の肖像」3部作は東京・ポレポレ東中野などで上映中

――「JPY」で何百円と書いてあるのが見えました。

結局、迷った末にソナが注文したのは、トッポギ。映画ではぜんぜん美味しそうには見えないんですが。あの外貨レストランは、(北朝鮮に帰国した家族にとって)日本から来たひとと一緒のときだけ入れる場所なんですよね。

つまり、日本から叔母と祖母が来て滞在している期間というのは、甥や姪っ子にとっては毎日がディズニーランドのようなもの。だからこそ、この期間だけは普段できないことをさせてあげたいし、見せてあげたい。たとえ全部注文したとしても日本円で大した金額にもならないし。

幼い子どもなりの判断

――もう1つ。強く印象に残ったのは市内の劇場の前で、2人で話していたときにソナさんが「カメラを止めて」と言いますよね。

そう。何だろうと身構えていたら、「叔母さんはどんな演劇を見てきたの?」と聞かれました。なんだ、そんなこと、なんですけど。北朝鮮の「外の世界」で見ることのできる話を聞くというだけで、これはヤバイとあの幼い子なりに判断したということですよね。

――カメラを止めてから彼女は、どんな表情だったのですか?

レストランと同じ。「さっぱり、わからない」。ブロードウェイといっても野田秀樹といっても「わかんない」。「ニューヨークという街にはミュージカルがあって、何でも歌にしちゃうのよ」というと、「ああ、歌劇ね」との返事。それでライブハウスというのがあって、お酒を飲みながらご飯を食べ音楽を聴くの。そういう話をすると、ぽかーん、としているんですよ。

――ポカーン、ですか。

ソナには浮かべる画がないんです。それでも自分なりに描こうとしていました。

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