在日コリアンの日常に映る「北朝鮮」の重い影 映画監督で在日2世のヤン ヨンヒさんに聞いた

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一方で父は隙があって、拉致された人たちを「(一時帰国であって)日本政府は返すと言っていたのに、約束を守らなかったじゃないか」と言いはするけれども、私が「だけど、家族は拉致された国に戻すわけがないでしょう。お父さん、自分の娘が拉致されたらどう思うの?」と問いかけると、「そりゃそうやな」と。

――デビュー作の『ディア・ピョンヤン』では、ピョンヤン市内の宴会場でお父さんが勲章をビッシリ服に飾りつけ、古希祝いのパーティに登場します。20年前、本作を初めて観たときには滑稽で笑いましたが、改めて観直すと、「北」で生きる家族、親戚のために取った行為という真意を知って切なくなる。その解釈をヨンさんは本の中に書かれています。

そうなんです。母は、あのときの写真を大きく引き伸ばし、額に入れ、何十カ所に送っている。とくにキム・イルソンの斜め後ろに父が写っている写真は、どの親戚の家にも飾ってあるくらい(笑)。

わかる人にはわかるシーン

――「偉大な主席様のそばにいる」写真が、あの国では後ろ盾になる。写真を撮るためのパーティだったけれども、口に出して説明するわけにもいかない。

そうですね。『ディア・ピョンヤン』を制作しているときから、その「本当は」が観客に十分には伝わらないのはわかっていました。ドキュメンタリーでは無理だと。

それは当時、父も母も正直に思っていることを言わなかったので。でも、わかる人はいるだろうというのと、この映画は「どうです。この家族、おもろいでしょう」であって「わたしの家族をわかって」ではないんですよね。

だから映画を観た人から「私らと変わらんなあ」「人間くさくて面白いで」という反響が大きかったです。

とくに本の帯に引用したパク・チャヌク監督(『別れる決心』『オールド・ボーイ』)。彼からは「自分の家族を撮って、この距離感は保てない。それをやってのけたヤンさんってすごいんだ。それ、わかっていますか?」って。

『ディア・ピョンヤン』の最後のほうで、私がカメラを向けて父ちゃんに語りかけているところは「娘」の部分が出ているので、私は嫌なんですけども。観る側からは「監督のヤン ヨンヒ」と「娘のヤン ヨンヒ」が、交互に出てくるのが面白いと言ってもらえて、カットせずによかったのかなぁと。

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