東アジアではなぜ「身内びいき」がはびこるのか 「集団主義」と「普遍主義」における社会的な輪

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お気づきのとおり、集団主義(つまり、家族の絆が強いこと)は見知らぬ者への信頼が低くなることとも関連している。これはアンケートや実社会の行動を通じて測定できる。

それが特によく表れているのがイタリアの事例だ。

イタリアでは北部よりも南部のほうが家族の絆が強い。南部出身のイタリア人は組織や機関への信頼が北部の人より低く、世帯の財産を銀行貯蓄や株式投資に回さずに現金で所持する割合が高い。

お金を借りる場合、南部出身のイタリア人は銀行よりも友人や家族に借りることが多い。また、買い物は小切手やクレジットカードではなく、現金で行なうことも多い。

集団主義からは、見知らぬ者を助ける傾向が小さくなることも予測される。献血はイタリアの北部より南部のほうが少ない。

「ロストレター」の設定を用いた最近の実験(宛先の書かれた切手つきの手紙を路上に放置し、何通が投函されるかを調べる実験)では、手紙が投函されて実験者のもとに戻ってきた割合は南部より北部のほうが高かった。

この大まかな傾向をまとめると、家族の絆が強いことは最も近い社会集団内での協力と信頼を増進するが、集団の外に対しては協力と信頼を減らすということだ。

財布が持ち主の元に返却されるかどうか

この種の影響は複数の国々を対象とした大規模な研究でも観察されることがある。

2019年に実施された壮大な実験では、研究チームが世界の350以上の都市で1万7000個を超える財布を落とし、その財布(現金と氏名と住所が入っている)が一般の人々によって返却されるかどうかを予測する要素を探った。

お金の入った財布を一度も会ったことがない人(そしておそらく将来会うこともない人)に返却する行為は、見知らぬ者を進んで支援する気持ちを測るうえで、まずまず強固な指標だ。

この実験で主な発見の1つは、「普遍主義」の国のほうが、親族の絆が強い国と比べて財布の返却率が高かったことだ。

(翻訳:藤原多伽夫)

ニコラ・ライハニ 進化生物学者

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Nichola Raihani

英国王立協会の大学研究フェローで、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの進化論・行動学の教授。同大学の社会進化・行動研究所のリーダーも務める。人間を含めた生物の社会的行動の進化が専門。科学誌に70以上の論文を寄稿し、その研究成果に対して2018年度フィリップ・リーバーヒューム賞(心理学部門)が授けられた。2018年には英国王立生物学会のフェローに選出される。本書が初の著書。詳しい研究内容については以下を参照。www.seb-lab.org

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