狩猟採集社会における「偉そうな奴」の悲惨な末路 「集団的利益」対「個人の利益」という綱引き

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チンパンジーの場合は、下位の雄も繁殖できるのだが、その成功率はアルファ雄よりはるかに低い。アルファ雄は集団内の子の3分の1をもうけられると予想でき、子の数は直近の競争相手の2倍を上回る。

最初期のヒトの集団における繁殖の平等性に関するデータはないものの、現代の狩猟採集社会から得られたデータを用いて、情報にもとづく推定はできる。狩猟採集社会における男性の地位と繁殖成功率の関係を調べた大規模な研究によると、地位が重要であることは確かだが、序列のある類人猿の社会ほど地位の重要性は高くないという。

繁殖の機会は、ヒトの男性のほうが、現存する近縁のどの類人猿よりもはるかに平等に与えられる傾向にある。

名声や尊敬が地位を高める

チンパンジーのアルファ雄は地位を乱用して自分のほしいものを手に入れ、ライバルを力ずくで脅したりいじめたりする。

しかし、最初期のヒトの集団(および現代の多くの狩猟採集社会)では、トップをめざすという大型類人猿の典型的な行動は実質的に封印された。

多くの狩猟採集社会では、威張った行動をとっても権力や栄光を手にすることはなく、たいていは嘲笑と追放の憂き目に遭うのがオチだ。

集団生活では個人の自主性が何よりも重んじられ、他者を傷つけたりいじめたりしない限り、人々はだいたい自分の好きなことができる。

ジュホアンシ族のある男性は、彼らに首長がいない理由を人類学者に聞かれたとき、こう答えた。「もちろん首長はいるさ。一人一人が自分の首長なんだ」

平等主義の社会では、権力や脅しを使うのではなく、名声や尊敬を集めることによって地位を高めていく。地位は権力を行使した結果ではなく、人々を納得させた結果だ。地位の高い人物はたいてい尊敬され、気前がよく、集団の利益を最大にするように行動する。

良好な地位を維持するためには、その地位を気にかけていないように見せ、威張ったり威圧的に振る舞ったりしていると非難されるような行動を避けなければならない。この暗黙のルールに従わない者は、集団の仲間の怒りを買うおそれがある。

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