狩猟採集社会における「偉そうな奴」の悲惨な末路 「集団的利益」対「個人の利益」という綱引き

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ジュホアンシ族のあいだでは、うぬぼれの度が過ぎる者やいばり散らす者は「お偉いさん」と呼ばれることがある。これは小ばかにした非難の言葉で、態度を変えなければ、さらなる制裁が待ち受けているとの意味を含んでいる。

人類学者による数々の報告には、権力を乱用する男性、あるいは集団内の女性やリソースを独占しようとした男性は仲間はずれにされるか、集団から排除されるおそれがあるだけでなく、殺されることさえある。

尊大な人物は集団から排除される

次に引用する一節には、カリナ(南米ガイアナの部族社会)が弱い者いじめをする人物や偉ぶった人物にどのように対処しているかが描写されている。

こうした手法は工業化されていない社会によく見られ、おそらく初期のヒトの集団でより広く見られた特徴だろう。

集落の男性たちは彼と話をする。しかし、彼が自分の立場を改善する努力を何もしていないように見えたら、集落を去るように忠告され、さもなければきわめて不快な生活を送ることになると言われる。

それでも集落にとどまっていたら、彼とその家族は社会からのけ者にされる。飲み会にも誘われず、何も借りることができないようになり、狩りや魚捕り、作物の刈り取り、カヌー造りなどの活動を誰も助けてくれなくなる。

ほかの男性たちはこうした活動で助け合っているにもかかわらずだ。彼の妻も仕事で支援を受けられず、彼の家族は水くみや水浴びをする場所にも入れない。

つまり、彼は集団生活のあらゆる利点を失ってしまうということだ。この仕打ちに気づかず、さらに関係が悪化すると、ほかの男性たちに叩かれたり、最悪の場合は殺されたりするおそれもある。

ここで重要なのは、最初期のヒトと現代の狩猟採集民の社会で威圧的な支配がない理由は、序列を避ける性質がもともとヒトに備わっていたからではないことだ。

交尾相手や食料、その他のリソースをめぐって他者と争う衝動は、すべての大型類人猿をはじめ、ほとんどの動物の脳に備わっている一般的な特徴である。ヒトも例外ではない。

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