狩猟採集社会における「偉そうな奴」の悲惨な末路 「集団的利益」対「個人の利益」という綱引き

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ヒトの社会の多様性は自然界では珍しいものの、こうした状態になったのはおそらく5000年前であり、その頃に最初の複雑な社会が現れ始めた。
とはいえ、それ以前のヒトの集団がすべて同じだったというわけではない。

最初期のヒトが暮らしていた集団でさえ、現代の平均的なミーアキャットやチメドリ、チンパンジーの集団どうしの違いよりも大きな違いがあっただろう。

とはいえ、最初期のヒトの社会にもかなり重要な共通の特徴があったと考えられている。地球上に出現してからほとんどのあいだ、ヒトは人口密度の低い社会で暮らし、決まった住居をもたず、狩猟や採集が可能な食物に頼って生きていて、食料の栽培や飼育、購入はしていなかった。

ヒトの社会はほかの類人猿の社会といくつか重要な点で異なっていた。その多くはすでに取り上げたもので、ヒトは類人猿より協力的であり、集団の境界を柔軟に変えることができ、家族をもっていた。

ヒトの社会は平等主義だった

しかし、それだけではない。最初期のヒトの社会はもう一つ重要な点で、チンパンジーやゴリラ、ボノボの社会と異なっていた。それは平等主義だったということだ。

ヒトの社会を平等主義に分類するのは少し意外に思えるかもしれない。特に、平等というものをお金と所有物に限った話だと考えた場合はそうだろう。しかし、お金やそれが生み出す富は比較的最近の発明であり、最初期のヒトは自分が自由に使える住居をもっておらず、所有物もたいして多くなかった。

社会の平等性を測るうえでより適切な進化上の指標は繁殖成功率だ。この尺度を用いれば、地球上に出現してからほとんどのあいだ、ヒトの社会は比較的公平だった。大部分の人がもうけられる子の数は似通っていたのだ。これと比べ、序列のある大型類人猿の社会では、アルファ雄が集団内の下位の個体を排除してリソースの使い道を決め、雌を独占することができる。ゴリラなどの種では、繁殖できるのは最上位の個体に限られ、アルファ雄が集団内のほぼすべての子の父親となる。

次ページ地位は繁殖の成功率にそれほど影響しない
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