こうした傾向がさまざまな国や社会で見られるという事実から、自分の取り分が他者より少ないことを嫌う性質(代償を支払ってでもそうなることを避けるほど嫌う性質)は、成長中に習得した好みというよりも、ヒトの心理にもともと刷り込まれている可能性が高いことが示唆される。
チンパンジーは公平性など気にしない
自分の財産と他人の財産を比べるというこの気むずかしい傾向は、人間に固有の短所なのか? それとも、進化のより深い系統に由来する性質なのだろうか?
初期の研究では、公平性への関心はヒトとほかの霊長類に共通するものである可能性(したがって、社会的比較はヒトとほかの霊長類の最後の共通祖先にも存在した可能性)が示唆されたが、これらの結果はほかの研究者が再現しようとしても、これまであまりうまく再現できていない。
また、ヒト以外の霊長類で不公平を嫌う性質の存在を肯定する結果の多くは、もっと単純な解釈とも整合性がとれている。それは、被験者となった霊長類は報酬を手に入れられるという期待を抱いており、その期待を下回る何かを与えられたために不機嫌になったという解釈だ。
公平性への好みは、その定義からして社会的な要素を含んでいる。自分の報酬を他者の報酬と比較しているからだ。
ヒト以外の霊長類はこうした社会的比較の手順を踏まず、自分が手に入れたものと理論上手に入れられるものとを比較して評価している。
私たちは隣人や友人に負けていないかどうかを絶えず気にしてやきもきする唯一の霊長類であるようだ。
一方、チンパンジーはそんなことをまったく気にしない。その理由を理解するには、ヒト自身の進化の歴史と、初期人類に働いた淘汰圧が大型類人猿に働いた淘汰圧とどのように違っていたかを調べる必要がある。
(翻訳:藤原多伽夫)
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