やんちゃ坊主が上った「天皇の料理番」への道 料理で日本のステータスを高めた男の人生

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自身も1970年代に、パリ留学の経験がある人気料理研究家の脇雅世さんはこう話す。

「弟子が失敗すれば、その頭を親方がフライパンで殴ることもある厳しい世界。私の頃ですらパリでは人種差別の風を感じたので、それよりもずっと前の秋山さんは、すべての面でまともに苦労したでしょうね。帰国後に『仏蘭西料理全書』を出されたのもすごい。当時は(フランスの名料理人である)エスコフィエの訳本と非難を浴びたらしいけれど、あれがなかったら後身は続けなかったと思う」

「仏蘭西料理全書」は名だたるシェフのバイブル

TBSテレビ『日曜劇場 天皇の料理番』は4月26日(日)よる9時スタート 60周年特別企画の主人公・秋山徳蔵を佐藤健さんが演じます

秋山氏がまとめた「仏蘭西料理全書」は名だたるシェフにとってバイブルだったというから、日本におけるフランス料理の発展に大きく貢献したことは間違いない。

その秋山氏は、自著の料理エッセイ『味の散歩』(産業経済新聞社)や『味』(中公文庫)の中で、私たち一般の人間にはうかがい知ることのできない昭和天皇や現在の天皇陛下との興味深いエピソードを披露している。

その一つが「天ぷら」にまつわる話。秋山氏は昭和天皇の前でよく「お座敷天ぷら」をしてさしあげたそうだ。その時に間違って揚げ立てを出してしまうと、陛下が「熱い!」と言われる。その代わり、冷めたものを出してもお小言はない。

私たちにしてみれば天ぷらは揚げ立てで熱いからおいしいのだが、それには天皇陛下というお立場ならではの理由がある。普段、食事は大膳(皇室の厨房)で作っているので、別棟の陛下の元に運ばれてくるまでに時間がかかり、その間にどうしても冷めてしまう。アツアツのものを食べる習慣がないので、いわゆる猫舌というわけなのだ。

また、現在の天皇陛下が皇太子だった頃の「鮨」のエピソードは、秋山氏の料理人としての姿勢がよく現れている。

皇太子さま(現在の天皇陛下)から「秋山に鮨を握ってもらって食べたい」と言われたそうだ。確かに皇族が町の鮨屋にふらりと入るわけにもいかないから、興味があったのだろう。秋山氏は職業柄、鮨の研究もしていたし、一流の鮨店にもしょっちゅう足を運んで季節のものを味わっていたらしい。

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