食事の栄養バランスが心配な人に伝えたい極意 5つの栄養素さえ適量摂っていれば概ね問題ない

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1つには、これらの栄養素はふだん食べているものに豊富に含まれるため、ビッグ5さえ適量を摂取していれば、自然とこうした栄養素も得ることができるからだ。おかげで、私たちは山ほどのややこしい計量や計算をせずにすんでいる。

空腹感に「胃の膨れ具合」は関係ない

ここまでの説明はとても理に適っているように思えるかもしれない。だが専門家の間でさえ、つねにこのように考えられてきたわけではない。

食欲という言葉は過去600年以上にわたって、日常会話でも専門家の議論でも、ほぼ同じ意味で用いられてきた。

早くも1375年にはスコットランド出身のジョン・バブアーが、饗宴についての詩のなかで「食欲以外の調味料はいらない」と詠んだ。ちなみにこの考えは、「食欲は最高の調味料」ということわざとして今も残っている。

少しあとの1398年に詩人のチョーサーが、「食欲不振は病気の前触れである」と述べて、旺盛な食欲は健康の証だとした。そして1789年にはベンジャミン・フランクリンが、「おいしいものは滋養になる」という言葉で、食欲と栄養ニーズを結びつけた。

食欲が科学の研究対象になったのは、最近になってからのことだ。すべてはある重要な疑問から始まった。体の中の何が空腹感を引き起こすのだろう?

食欲人
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1912年に唱えられた初期の説は、「グウグウ仮説」と呼ばれた。この説によれば、食欲のスイッチになるのは「胃の膨れ具合」だ。空腹で収縮した胃の壁がこすりあわされてグウグウ鳴ると空腹のスイッチが入り、満腹になるとスイッチが切れるというわけだ。

グウグウ仮説にとどめが刺されたのは、胃がない人にも空腹感があることが示されたときだった。がんや腫瘍の治療で胃を切除した患者も、空腹時のあの胃の痛みを感じ続ける。

その後も、体内の様々な尺度が、食べるべきタイミングを知らせるとする仮説が提唱された。「温度定常説」は、動物は体を十分温めるエネルギーを得るために食べ、過熱しそうになると食べるのをやめるというもの。そのほか、血糖値が重要な尺度だとする「糖定常説」や、体脂肪をもとにした「脂肪定常説」、血液中のアミノ酸濃度に注目する「アミノ酸定常説」があった。

これらは明らかに異なる考えだが、どの説も、食欲と体が必要とするものを結ぶリンクとして、食事を構成する要素――エネルギー、糖、脂肪、またはアミノ酸――を特定したという点では同じだった。

(次回は6月30日配信)

デイヴィッド・ローベンハイマー シドニー大学生命環境科学部栄養生態学教授

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でいゔぃっど・ろーべんはいまー / David Raubenheimer

オックスフォード大学で研究員および専任講師を10年間務めていた。世界中の大学や会議で講演を行っている。スティーヴン・J・シンプソンとの共著に『The Nature of Nutrition: A Unifying Framework from Animal Adaptation to Human Obesity』(未邦訳)がある。シドニー在住。

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スティーブン・J・シンプソン シドニー大学生命環境科学部教授

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すてぃーぶん・J・しんぷそん / Sthephen J. Sinpson

主な受賞歴に王立昆虫学会ウィグルスワースメダル、オーストラリア博物館ユーリカ賞、ロンドン王立協会賞、オーストラリア勲章第二位など。イギリスやオーストラリアのメディアやテレビにたびたび取り上げられている。

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