ではヒトのようなより複雑な種についてはどうだろう? 人間に必要な食欲はいくつなのか?
いや、こう問い直したほうがいいだろう。人間が生存し健康でいるためには、最低でいくつの食欲があればいいのか?
答えは、5つのようだ。5つの食欲があればいい。それは、次の栄養素を摂取するよう駆り立てる食欲だ。
・炭水化物
・脂肪
・ナトリウム(塩)
・カルシウム
これらは3つの主要栄養素と、2つのとくに重要な微量栄養素だ。またこれらは私たちが食物の中で味を識別できる栄養素にぴったり一致する。
これらの食欲が、一見不可能な難題をじつに鮮やかに解決してくれる。私たちの食欲は、特定の風味に照準を定め、生存に必要なものだけを食べるためのガイドになるよう進化したのだ。
なぜ「5」なのか?
これら5つの栄養素(「ビッグ5」と呼ぼう)が進化の過程で選び出されたのには、特別な理由がある。
第一に、これらの栄養素は、非常に正確な――多すぎず、少なすぎない――水準で食事に含まれている必要がある。
第二に、これら栄養素の濃度は食品によって大きく違う。たとえば米からタンパク質の要求量を得ようと思ったら、ステーキよりずっと多くの量を食べる必要がある。
第三に、これら栄養素の一部は、私たちの祖先が暮らしていた環境ではめったに見つからなかったので、それを探し出すことに特化した生物学的な仕組みが必要だった。
たとえば、ナトリウムとカルシウムは、かつて非常に希少だったため、それぞれに専用の食欲と味覚受容体が割り当てられた。
人間以外の動物にとっても、これらの栄養素は貴重だ。ゴリラは十分な塩分を摂取するために樹皮さえ食べる。ジャイアントパンダにとってカルシウムはとくに重要で、繁殖に十分な量を得るために長距離を移動する。
そのほかの重要な栄養素――ビタミンA、C、D、E、K、B1(チアミン)、B2(リボフラビン)、B3(ナイアシン)、B5(パントテン酸)、B6、B7(ビオチン)、B9(葉酸)、B12、それにミネラルのカリウム、塩素、リン、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素、クロム、モリブデン、セレン、コバルトなどについてはどうなのか?
なぜ人間はこれらの食欲を発達させなかったのだろう?