メスのクロバエはバッタと同様、糖とアミノ酸の味を足や腹部の先端で感じ、それを頼りに、(少なくとも人間に)嫌悪感をもたせるものを選び、その上に卵を産みつけて幼虫を育てる。
これを気味が悪いと思う人は、私たち人間も口の中だけでなく、腸にも味覚受容体をもち、食物が消化の過程で分解される間も栄養素を追跡していることを忘れてはいけない。腸は両端に開口部があり、前端で食物を味わうのと同じように、その全長にわたって食物を追跡し続ける。
そして栄養素が腸で吸収されて血流に入ってからも、肝臓や脳を含む様々な器官に分布する味覚受容体が検出を続ける。また脳にある「食欲制御中枢」という神経回路は、血流と肝臓、腸からの信号を収集して、空腹感と満腹感を引き起こす。
あなたは「舌以外」でも味わっている
人間は主要栄養素だけでなく、無機塩を含む一部の微量栄養素を検出できる味覚器も、舌をはじめ全身にもっている。
味や風味は、どれがどの食物で、それぞれにどの栄養素がどれだけ含まれているかという情報を提供する。これらは、最適な摂取を「外側」から知る方法だ。この情報をもとに、動物は何を食べるかを決めることができ、そのことの重要性は今さら強調する必要もないだろう。
だが動物にとってそれと同じくらい重要なもう1つの情報は、味と風味から知ることはできない。すなわち、動物がその時々に各栄養素をどれだけ必要としているかだ。
この「内側」から知る方法をつかさどるのが、食欲システムである。
食欲は、満腹になるまで食べるよう動物を駆り立てる、たった1つの強力な欲求だと見なされがちだが、それはまちがっている。
バッタが教えてくれたように、単一の食欲では、栄養素をバランスよく組み合わせることはできない。体が要求する一つひとつの栄養素を追い求めるには、それぞれに別々の食欲が必要だ。
だがその一方で、動物の生体システムは複雑になりすぎると効率的に機能できない。
この理由から、生存と健康に必要な数十種類の栄養素の一つひとつに特化した食欲をもつわけにはいかない。そんなものがあったら何かを食べるたびに頭がおかしくなってしまう。
それに代わるものとして、バッタにはタンパク質欲と炭水化物欲の2つの食欲があることを、私たちは明らかにした。