RISING SUN開催地で再エネ100%ゾーン実現の訳 「REゾーン」の現場で見えた水素事業の着地点

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とはいえ、国は「GX実現に向けた基本方針」の中で公開した「今後の道行き」と称したロードマップの中で、水素について2025年までを集中的な制度創設期間として、2026年から2030年までを官民による大規模投資による初期導入期、さら2030年代から本格普及を目指すとしている。

つまり、あと2~3年で、「国全体の水素の需給バランス」のグランドデザインが明確化することが予想される。

地産地消型のマイクログリッドを実現

最後に、石狩市がすでに社会実装している、水素を活用した再生可能エネルギーの地産地消事業を紹介したい。石狩市の中部にある厚田地区(合併前の旧厚田村)の「防災力の強化を実現する、地方の新たなエネルギー供給モデル」である。

太陽光発電が入り口で、電力の供給先は「道の駅・石狩あいろーど厚田」、小学校などがある「厚田学園」と「厚田給食センター」「石狩消防厚田支署」などの公共施設だ。

石狩市の「地産地消型マイクログリッド」システムの詳細(石狩市の資料より)

システム概要はこうだ。発電するのは163.4kWの太陽光発電で、これを容量168kWhのリチウムイオン電池によって主に平時に、また災害など有事の際には2kWの燃料電池をバックアップとして使う。燃料電池用の水素は、太陽光発電から水電解して作り、また系統連携も併用する。

こうしたシステムは、理論のうえでは十分可能だが、コストが高くなりがちなため、実用化される事例は少ない。だが、石狩市では、2018年9月6日未明の最大震度7を記録した北海道胆振東部地震により、北海道全土が停電するブラックアウトを経験したことが、大きな転機となった。

電力需要の少ない厚田地区は、電力復旧にかなりの時間を要したことから、防災を考慮した地産地消型のマイクログリッドの実現を検討したのだ。特に冬季の災害時、北海道では電力確保の解決策としての期待が高まった。

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そうして厚田地区でのマイクログリッドは、構想から約4年を経た2022年、北海道庁の支援を受け社会実装された。これは、石狩市が目指すゼロカーボンシティの好事例だといえるだろう。

今後は、厚田地区のさらに北部にある浜益地区でも、厚田地区と同様のシステムになるかどうかは未定だが、再生可能エネルギーによる地産地消型マイクログリッドの社会実装を目指すという。今後も石狩市のREゾーンの行方を継続的に取材して、エネルギー問題を考えていきたい。

【2023年6月7日12時00分追記:初出時、敷地面積に誤りがあり一部訂正しました】

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桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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