RISING SUN開催地で再エネ100%ゾーン実現の訳 「REゾーン」の現場で見えた水素事業の着地点

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日本では菅政権時に国が掲げた「2050年カーボンニュートラル実現に向けたグリーン成長戦略」の中で、再生可能エネルギーに関する新しい発想が盛り込まれ、水素の利活用についても大幅な拡充を目指すとした。

直近では、岸田政権が2023年2月に閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」の中で、「水素・アンモニアの生産・供給網構築に向け、既存燃料との価格差に着目した支援制度を導入。水素分野で世界をリードするべく、国家戦略の策定を含む包括的な制度設計を行う」と、重要事項の1つとして水素を位置付けている。

こうした時代の潮流によって、石狩市の水素戦略構想やREゾーンの実現に向けた追い風が今、吹いているといえるだろう。ただし、課題も少なくない。

まだ見えぬ「需要と供給のバランス」

NEDOの「水素・燃料電池成果報告会2022」で発表された資料によれば、水素の利活用を考える事業者からは、導入機器のコストと都市ガスなどとの価格差、エネルギー密度の違い、そして災害時等での安定供給等を懸念する声が聞かれた。

また今回、石狩市と意見交換をする中で、「需給バランスがまだはっきりと見えてこない」という指摘も何度かあった。

今回、取材に応えてくれた石狩市 企画経済部企画連携推進課主査の佐々木拓哉氏(写真右)と同課の天野良祐氏(筆者撮影)

どこで/どのように/どのぐらいの水素を使うかが見えないから、その水素を確保するために風力発電の余剰電力をどの程度、見込めばいいのか、という事業の出口からバックキャストするイメージが正確には描けないのだ。

その背景には、「水素を使う側(需要側)」の事業戦略が定まっていないという実状がある。今回の石狩市での取材とは別に、2023年に入ってからこれまで約4カ月間にわたって水素や燃料電池に関する各方面への取材や意見交換を行っているが、各所で聞かれる声からも、そうした感触を得ている。

例えば、トヨタやホンダによる燃料電池システムのB2B(企業間取引)や、電力企業によるLNG等の火力発電での水素混燃については、社会全体でのグランドデザインが描けている印象がない。

これは、水素の需要側による「使う水素の規模」や「水素を使う方法」が、まだまだ固まっていないことを意味する。石狩市のような「水素をつくる」「水素を運ぶ」という供給側が、「需給のバランスがまだ見えてこない」というイメージを持つのは当然だろう。

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