セブン&アイ井阪体制続投で問われる「真の手腕」 スーパーを3年で利益体質、カギは縦割り打破

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売り場には、1個500円を超えるプリンや、1本4000円を超えるワインなどが並ぶ一角がある。この「ザ・ガーデン自由が丘」は、もともとそごう・西武傘下だったシェルガーデンが運営するスーパーで、百貨店に並ぶような老舗菓子類や高単価な酒類などの取り扱いに強みを持つ。ヨーカ堂やヨークでは通常仕入れられない商品も、シェルガーデンとの共同出店であれば、導入することが可能になる。

ヨークフーズ中野店には「ザ・ガーデン自由が丘」を導入して新規客を獲得した(記者撮影)

中野店にはほかにもグループのプライベートブランド(PB)「セブンプレミアム」はもちろん、グループの食品スーパー、ヨークベニマルが手がける惣菜「レストランデリ」や、ヨーカ堂の「顔が見える野菜」など、グループ各社の強みを持ち合った。

中野駅の周辺は東京23区でも指折りの人口密度を誇るものの、競合のライフコーポレーションや西友も店を構えており、売り上げの低迷が続いていた。その中で改装によって付加価値型の品ぞろえを強化した結果、高所得者層を中心に新規客が増えた。客単価も引き上がり、売り上げは改装前と比べ約3割伸びているという。

しかし逆にいえば、こうしたグループの総力を挙げた改革は、これまでなぜ進まなかったのか。その要因として多くの関係者が指摘するのが、組織の縦割りだ。ヨーク執行役員の天勝啓介販売部長は、「それぞれの事業会社は互いに競い合い、自身の収益拡大に終始してしまっていた。その結果、積極的な知見の共有は行われていなかった」と明かす。

セブン&アイは、スーパー事業の構造改革を「3年の時間軸で実行」すると謳っている。中野店のような売り場作りを「面」として広げるためには、放置してきた縦割り組織の打破がまず必要になりそうだ。

今度こそ構造改革を実現できるか

バリューアクトのパートナー、ロブ・ヘイル氏は総会前に行われた東洋経済のインタビューに、「セブン&アイは中計を出すたびにヨーカ堂の構造改革を進めると言い続けてきた。国内に約100店展開するヨーカ堂の建て直しに力を注ぐがあまり、世界に8万店以上あり成長の原動力でもあるセブンーイレブンに注力しきれていない」と不満を語っている。

セブン&アイが井阪体制に移行して7年。その時間は決して短くない。物言う株主との対決の末、再任された井阪社長は今度こそ構造改革を実現できるのか。真の手腕が問われることになる。

冨永 望 東洋経済 記者

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とみなが のぞむ / Nozomu Tominaga

小売業界を担当。大学時代はゼミに入らず、地元密着型の居酒屋と食堂のアルバイトに精を出す。好きな物はパクチーと芋焼酎。

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