アマゾンがあえて「2つの価格」を表示する深い意図 「払うことの痛み」をうまく薄れさせる戦略?
アマゾンはこの「キャッシュレス効果」以外にも、さまざまな行動経済学の理論を組み合わせて、ビジネスを強化させています。
まずは「アンカリング効果」。アンカリング効果とは、「最初に提示された数値などが基準(アンカー=錨)になり、その後に続くものに対する判断が非合理に歪んでいく」理論です。
アマゾンはセール中の商品価格を、「取り消し線の定価」「割引価格」の2つで表示しています。これは定価がアンカーとなって割引価格がとても安く思われ、購入につながるという戦略。実際にその価格がお買い得であるという保証はないのに、人はつい、釣られてしまいます。
次に「おとり効果」。「誰も選ばないような選択肢(おとり)」をあえて追加することで、「もともとあったもの」を選ばせるという理論です。
アマゾンで買い物をする際、「比較する」をクリックすると、商品価格と配送条件を、アマゾンと他の小売業者で比較できます。「低価格、最速配送」をモットーとするアマゾンは、大抵競合他社に圧勝です。
それなのに、なぜ他社の価格と配送条件をあえて提示するのか? これはアマゾンの商品をより魅力的にするための「おとり」として使っていると捉えられます。
「直感」と「論理」を場面で使い分ける
さらに「システム1 vs システム2」という理論も駆使している点です。簡単に言うとシステム1は「直感」、システム2は「論理」です。人間の脳が情報を処理する際には、「直感」に基づいて判断するシステム1と「論理」に基づいて判断するシステム2の両方があり、場面場面で使い分けています。
アマゾンが巧みなのが、「システム1」で意思決定させる状況を作っている点です。
顧客は商品を選択し、「バスケットに入れる」という目につくオレンジ色のボタンをクリックすると、「1-Click注文」オプションを有効にできます。クレジットカードや住所など、初回購入に必要なデータをすべて登録してあれば、熟考することのない直感的な「システム1」で簡単に購入できます。
「キャッシュレス効果」により、「1-Click注文」だと、クレジットカードすら出さずに買えるので、「自分の大切なお金を使ってしまっている」という感覚がさらに薄らぎます。
もう一つ、指摘しておきたいのが「自動更新」です。日本だと月額500円の「アマゾン・プライム」は、配送料が無料になったり一部の電子書籍が無料で読めたりするオプションです。一度申し込むと、期限までに顧客が解約しない限り、自動更新されます。
これは、多くのサブスクリプションサービスが採用している機能で、「惰性(イナーシャ)」という理論を利用したもの。たまにしか買い物をしない、本来プライムサービスが必要でない顧客からも会費を確保する効果を生んでいます。
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