茹でガエルにならず「組織を飛び出す」生き方とは 塀の中に落ちないように塀の上を上手に歩く

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― 病院勤め時代には、葛藤などはありませんでしたか。

名越:僕は本質的には組織に適合する人間ではないのですが、葛藤は特になかったですね。初めから「あいつは変わっている」と思われていましたから。赤いふちの眼鏡をかけてふつうに診療していたり、今から考えると「私はちょっと変わっていますので、ご了承ください」というサインを無意識に自分から出していたのかもしれません。

だからかえって組織の中で軋轢がある、生きづらいという人は、組織にある程度適応できているのだと思うんです。ある程度適応できているからこそ、痛みが常態化しないのではないでしょうか。とても怖いことを言うようですが、ゆっくり茹でガエルみたいになってしまうことがありうる。

― 養老先生も東大時代「ちょっと変わっている」とよく言われたそうですが、東大時代には組織とどう関わってこられたのでしょうか。

養老:本音をどう理解するということですかね。自分の本音がどうで、相手の本音がどうなのか。本音でないところは適当に収められたのですが、本音がぶつかるとえらいことになりました。ですから、本音が見えないとイライラしましたね。自分の本音が分かっていないとやることを間違えてしまう。

― 相手の本音を見抜くのは容易ではないですね。

養老:もう突き止めるしかない。

鎌倉にて養老孟司氏(左)と名越康文氏(右)(写真:日刊現代)

― あるところで、養老先生が「塀の上を歩いてきた」とおっしゃっていました。

養老:今とちょっと事情が違うんですけど、当時は大学に勤めていると国家公務員だったんですね。ある時オーストラリアに行ったのですが、そこからニュージーランドに行けないんですよ。ニュージーランドに行きたかったら、まず大使館に届けを出さなきゃいけなかった。許可をもらわなきゃいけなかった、何日から何日までと。その後、日本に帰ってきて、2、3日たって大学に顔を出したら、えらい怒られましてね。帰ってきたその日にパスポートを返せって。

名越:そんな時代なんですか。

養老:そうです。公務員の規定ですね。国にしてみれば当たり前なんでしょうけどもね。そのあとで東大で贈収賄みたいな事件が起きて倫理委員会というのができましてね、その委員長にさせられたんですよ。仕方がないからいろんなルールを読んだら呆れましたね。要するに私企業からおカネをもらっちゃいけない。

ところがね、(教員の)家が農家だったらどうする? そういったことを細かく決めてあるわけです。商業的に売っている場合はダメなんです。自分の家で賄う分には構わない。要するに兼業はどこまでいいかとか。

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