金融庁が事故車の保険修理工賃めぐり実態調査へ ビッグモーターの保険金不正問題にも波及か

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一方で、2014年以降は消費者物価指数が緩やかな上昇基調にあるほか、コロナ禍の収束やロシアによるウクライナ侵攻などに伴って、インフレが世界各地で急激に進んだ。2023年に入ってもその勢いが続いていることや、整備業界から「安い工賃で損保から下請け会社のようにこき使われている」(大手整備業者幹部)といった不満の声が噴出していることもあり、損保各社として対応単価の引き上げは避けられないと判断したわけだ。

修理工賃をめぐっては、整備業界の不満の声を受けて、金融庁と国土交通省が2010年に実態調査をした経緯がある。

自動車整備工場の様子
今回の調査方針からは金融庁の本気度がうかがえる。写真はイメージです(写真:花火 / PIXTA)

当時の調査は自研センターの標準作業時間指数について、適正な設定になっているかが主眼であり簡易なものだった。

今回は指数に掛け合わせる対応単価や取引の実情について、損保各社に加えて整備業者にも聴取を行って、実態を詳しく調べる方針だ。

また、金融庁による実態調査は、中古車販売大手ビッグモーターによる事故車の修理費不正(水増し)請求問題にも今後影響してくる可能性がある。

“主幹事会社”となっている損保ジャパンを中心に大手損保はこれまで、ビッグモーターを整備やサービスの品質が高い事業者として、全国にある約30の整備工場を指定・提携工場に設定し、年間約3万台に上る事故車を優先的にあっせん(入庫誘導)していた。

その背景にあるのは、ビッグモーターが事故車の入庫誘導実績などに応じて大手損保に割り振る自賠責(自動車損害賠償責任保険)の契約だ。保険代理店として200億円近い売り上げがある状況で、損保各社としても自賠責の契約欲しさに、ビッグモーターへの入庫誘導を強力に推進していたわけだ。

取引慣行の闇が明るみに?

修理費の水増し請求問題は、そうした一連の取引構造の中で発生している。契約欲しさに修理工賃や作業内容の適正化については後回しにして、水増し請求には一部で目をつぶるような取引慣行が染みついていた疑いもある。

その疑いはあくまで個社特有のものなのか、それとも業界全体に広がるものなのか。実態調査を通じてそうした「闇」の部分があぶり出されることになるのか、今後注目を集めそうだ。

中村 正毅 東洋経済 記者

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なかむら まさき / Masaki Nakamura

これまで雑貨メーカー、ネット通販、ネット広告、自動車部品、地銀、第二地銀、協同組織金融機関、メガバンク、政府系金融機関、財務省、総務省、民生電機、生命保険、損害保険などを取材してきた。趣味はマラソンと読書。

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