YouTube、スキップNGの「30秒広告」に見える未来 「古臭いやり方」が一周回って有効に?

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スキップ不可の広告の拡充は、一見するとこの流れに反しているようにも思えるが、実態はどうだろうか?

マスメディア化するYouTube

既存のマスメディアの広告は、多くのオーディエンス(視聴者、読者)の存在を前提とし、コンテンツの間に広告を挟み込むことで、「見たくない人にも強制的に見させる」という強制接触モデルを取っていた。

広告事業者は、「広告は人々から嫌われている」ということを前提とし、できるだけ魅力的に見えるような広告表現を模索してきた。

インターネットが普及するにつれて、広告配信におけるデータ活用、さらにはデータを活用した広告運用の技術が進化し、急速に普及してきた。

実際、電通グループ5社による共同調査によると、広告主がターゲットや予算、クリエイティブ(配信内容)を自由に変更し、効果を高めることができる「運用型広告」が、全インターネット広告の85%強を占めるに至っている(https://www.dentsu.co.jp/news/release/2023/0314-010594.html)。

しかし、広告業界の中からは、データ活用、効率化に関する限界も指摘されるようになってきている。

特定の限られた層に効率的にアプローチすることは重要だが、そもそも広告とは、その名前が示すように「広く告げる」という役割を担っている。効率化を極限まで推し進めることで、逆にその限界が露呈してきたようにも見られる。

YouTubeを運営しているGoogle社は、最先端のテクノロジーをビジネスに適用して成功している企業である。限定的とはいえ、原始的ともいえる、「スキップ不可」の広告を再導入してきたことについて、筆者は興味深い動きと考えている。

YouTubeでは、優良の長尺コンテンツに視聴者が集中することで、テレビ放送とも並列される「マスメディア化」が起こっている。それに伴って、既存のマス広告と同様の広告手法を採用している。

これまで、インターネット業界を中心に、「古臭い非効率的なやり方」として批判されてきたマス広告の方法論が、一周回って意外に有効であることが認められているという面もありそうだ。

現時点では、30秒スキップ不可広告の導入は限定的で、視聴者に対する影響は限定的ではあるが、マスメディア化するYouTubeのビジネスモデルのあり方を展望する興味深い動きであると筆者は捉えている。

西山 守 マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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にしやま まもる / Mamoru Nishiyama

1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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