「認知症の人」に語りかけ続けたら起きたこと 「何を言っても通じていない」という大きな誤解
「わかりやすく話そう」を重視した結果、私たちの話はただの「情報のやりとり」に陥っていないだろうか? 共感して聞くことを重視した結果、私たちは相手の話に自分を投影しているだけで、ちゃんと相手を理解しようとする姿勢を忘れていないだろうか──。
そんな疑問から、「本当の言葉」を大切にしている人たちに話を聞き、コミュニケーションを考え直す書籍、『聞くこと、話すこと。 人が本当のことを口にするとき』。本稿では同書より、認知症の人に語りかけることの意義について紹介します。
人から言葉を奪うという恐ろしい行為
「話す」ことを説明するにあたって、フランスで認知症の新しいケアの哲学を創設したイヴ・ジネストさんはこう切り出した。
「ドイツの強制収容所でどんなことが起きたか知っていますか。話すことを禁じました。歌うことを禁じました。見ることを禁じました。アイコンタクトを禁じました。自分の名前を忘れさせ、番号をつけました。それは非人間化の条件を整えることです。あなたが人間であることを忘れさせようとする」
それほど話すことは、私たちが人間であるうえで不可欠なのだ。
ところがイヴさんが以前、ある病棟で行った調査では、認知症で自分からコミュニケーションしなくなった人たちは、スタッフから24時間のうち平均して120秒しか話しかけられておらず、なかには10年間一言も話しかけられずに過ごしている患者もいることがわかった。
もう話すことができない状態なのだからコミュニケーションができない。そう思われて積極的に話しかけられなかった。強制収容所ではない、ケアの施設で、社会的な死、非人間化の試みが遂行されていたことになる。
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