私や家族を認識して、私の子供時代について話すことはできるが、9+3は何かと聞かれても答えられない。
食べ物を2つ差し出して選んでもらおうとしても、考えをまとめることかできない(どちらか一方がチョコレートだったら別だが)。
いまの大統領は誰かとか、ここは何という国かとか聞いても分からない。
それでも私が迎えに行くと、即座に「何を悩んでいるの」とか「何か引っかかっていることがあるんでしょ」などと声を掛けてくる。しかもいつも図星。何とも不思議だ。
情動的知能は我々の中に深く根付いていて、最後まで残りつづけるらしいのだ。
社会で成功した人に共通するもの
「情動的知能(心の知能)」という言葉はあまりにも定着していて、まるで昔からあったかのように思われているが、実は1990年に2人の心理学者が作った言葉だ。
その2人とは、イェール大学のピーター・サロヴェイとニューハンプシャー大学のジョン・メイヤーである。
このテーマに関して初めて大反響を巻き起こした2人の論文の冒頭には、次のように記されている。
「『情動的知能』とは、自身や他者の情動を的確に評価して表現すること、自身や他者の情動を効果的に統制すること、感情を生かしてやる気を起こし、計画を立て、物事を達成すること、これらに寄与すると仮定される一連のスキルのことである」
「『情動的知能』というのは矛盾した言葉だろうか?」と2人は問いかけている。自然に湧いてくる疑問だ。
西洋の伝統的な考え方では、情動は理性的な精神活動に役立つものではなく、それを混乱させるものとして作用するとみなされている。
最近まで人々は、理性的能力というものが何であったとしても、真の知能を表しているのはIQスコアであって、それ以外の指標は関係ないと思い込んでいた。
しかしサロヴェイとメイヤーは、情動と理性を切り離すことはできず、それどころか社会で大成功を収めている人たちの多くは情動的知能が高いことを見抜いた。
また逆に、ビジネスや社会における知能がきわめて高くても情動的知能の低い人の多くは、苦境に陥ることにも気づいた。
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