例として、2008年にノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院のアダム・ガリンスキーと3人の共同研究者がおこなった実験を取り上げよう。
経営学修士課程の学生たちに、ガソリンスタンドの売却に関する模擬交渉をおこなってもらった。その際、買い手の出せる最高額が売り手の受け入れられる最低額よりも低くなるように設定した。
しかし交渉するのは価格だけではない。買い手にも売り手にもほかにいくつか考慮すべき事柄があり、それらを適切に踏まえれば両者とも満足できる形で取引できるかもしれない。
交渉に先立って、3分の1の被験者にはごく一般的な助言を与えた。別の3分の1の被験者には、相手が何を「考えている」かを想像するようにと助言した。そして残り3分の1の被験者には、相手が何を「感じている」かを想像するようにという助言を与えた。
その結果、相手の思考または感情に注目した被験者は、そうでなかった被験者に比べて、交渉をまとめられる割合が有意に高かった。
情動的知能はどの分野にも欠かせない
ビジネスの世界で交渉は1つの役割を果たしているにすぎないが、ここ何十年かの研究によって、他者の感情を理解する能力を備えた実業家は、経営管理や人材確保、リーダーシップなど、職業上のさまざまな面に秀でていることが明らかとなっている。
科学者には情動的知能が欠けていることが多いが、それでも重要である。というのも、残念ながら優れた研究をおこなうだけでは、競争の激しいこの職業で成功するための第一歩にしかならないからだ。
片付けるべき研究が爆発的に増えてしまったとき、自分の研究に関心を持って理解してくれる共同研究者を集める能力は、少なくとも本来の科学的才能と同じくらい重要だ。
他人に合わせられない人は友達作りにも苦労する。
たとえば、会話の相手が話を終わらせようとしていたり、口をはさんで受け答えをしようとしていたりしても、社会的手掛かりに気づかずに話しつづける人もいる。他人が感情を込めた話をしているのに、適切に反応できない人もいる。
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