職員が告白、「介護業界」隠蔽体質が招く大量離職 元会社員の転職組が出世して事なかれ主義に

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労働内容や需要を考えると十分な報酬を得ているとは言い難いが、労働環境の意識は変わりつつある。特に近年目立つのが、外国人介護従事者の増加だ。明らかに現場には変化が生まれているという。

「慢性的な人手不足が叫ばれてきた介護業界において、少し前までは40代や50代の転職者も珍しくなかった。今は真面目でよく働く外国人の労働者が増えたことで、施設もそこに頼っている面がある。そのため、今は面接で落とされる中高年の割合が増えてきているとも感じます。

中でも元会社員組に関しては、施設もプラスにならないと判断することが増えたのか、かなり落とすようになっている。利用者の対応などを見ていても、変なプライドを持っている中年男性よりも、多少言葉に難があっても一生懸命働く外国人のほうが有益なことも多い。今は都市部だとだいたいどの施設にも外国人の介護従事者がいるという感覚です。その反面『外国人頼み』となる施設が今後どんどん増えていくのではないか、という危惧もあるのですが……」

マルチワークとしての介護職

こういった状況も踏まえて、介護従事者たちの意識にも年々変化の兆しが見えている。それは、常勤の職員ではなく、非常勤の職員として働き、他業種との掛け持ちや、複数の施設で働くような働き方をする者も出てきたことだ。つまりマルチワークとして介護職を選択する概念も生まれているということだ。

「合う合わないがはっきりしており、肉体労働ではありますが、慣れると実はそこまで苦にならない。若い世代には『非常勤のほうが稼げる』と言って、複数の施設を掛け持ちする子もいますね。一方で、時折『利用者の方にお小遣いを貰った』というような会話が聞こえてくるなど怖さもある。1つ言えるのは、以前のように『誰でも出来る仕事』というイメージや、中高年の受け皿としての側面が強い職種ではなくなりつつあることでしょう」

もちろんこれらはあくまで田中さんが見てきた業界のほんの一部でしかない。しかし、掘れば掘るほど話は溢れ出てくる。介護業界が抱える闇は決して浅くはないのだろう。

「それでも、利用者の話を聞くのはためになるし、自然と情も湧いてくる。たぶん自分はこの仕事が決して向いてはいないけど、嫌いじゃないんだと思いますね」

まさか自分がここまで長く続けることになるとは思わなかったですよ、と田中さんは少し自嘲気味に笑ってみせた。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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